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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は広島原爆の日
  そこで、
  井上ひさしさんの『父と暮せば』を
  紹介したいと思います。
  この本は再読になります。

    前回の書評はこちらから。

  この本は新潮文庫で読んだのですが
  この夏の「新潮文庫の100冊」に
  何故かはいっていません。
  しかも
  「新潮文庫の100冊」には
  井上ひさしさんの作品が
  ひとつもはいっていないのです。
  文学は時代とともに評価がかわりますが
  井上ひさしさんはもっと評価されていい作家です。
  さらにいえば、この『父と暮せば』は
  井伏鱒二さんの『黒い雨』と比べても遜色ない
  名作だと思います。
  ちなみにいえば、『黒い雨』は
  「新潮文庫の100冊」に選ばれています。
  この作品が戯曲だから
  選にもれたのでしょうか。
  小説であれ戯曲であれ、
  この作品の持つ重みは変わらないと思うのですが。

   被爆忌のいのち素直に髪洗ふ  中尾杏子

  じゃあ、読もう。

父と暮せば (新潮文庫)父と暮せば (新潮文庫)
(2001/01/30)
井上 ひさし

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sai.wingpen  井上さんからの遺言                   

 演劇を観る機会はなかなかない。
 その点映画は映画館に行くことは減っても、レンタルしたりTV鑑賞という手段はいくらでもあります。
 実際、井上ひさしさんのこの作品に初めて接したのは、映画でした。
 2004年に封切られた、黒木和雄監督作品。主人公の美津江を宮沢りえさんが好演していました。それ以上に父親役の原田芳雄さんが素敵でした。
 黒木監督も原田芳雄さんももう軌跡にはいられているのが信じられません。
 映画から受けた印象はとても深いものでした。宮沢さんや原田さんが話す広島弁がなんといってもよくて、原爆という重いテーマでありながら、どこかに笑いを含んでいるのは、その方言のおかげといってもいいでしょう。

 映画よりももっとしばしば接することができるのが、本です。
 この作品、文庫本にしてわずか126頁。しかも、解説文をいれてです。
 読もうと思えば、毎日でも読めます。
 しかも、これは井上さんの戯曲ですから、自分の心の中の配役が広島弁を巧みに操るのです。
 読者が東北の出身であろうと大阪の出身であろうと、この本を読んでいる時間は広島弁ワールドといっていいでしょう。
 そんな世界を、本は身近に体現してくれるのです。こんないいことはありません。

 舞台は昭和23年7月の広島。
 雷に美津江が「おとったん、こわーい!」と家に逃げ帰ってくる場面から始まります。
 押入れの奥から顔を出す父竹造。誰もが仲のいい親子関係だと思います。
 さりげない導入部ですが、芝居が進むにつれて、父はすでにこの世の人でないことに気付きます。
 父竹造は恋をした美津江が生み出した虚像。原爆で独り生き残った美津江には自分だけが幸福になってはいけないという負い目があります。けれど、恋をしたもう一人の自分がいます。
 それが父となって現れたのです。
 ためらう娘。
 はげます父。
 恋したものだけが知る葛藤といえます。
 それに、原爆の悲劇が重なります。
 井上さんは原爆の悲劇を悲劇のまま終わらせようとはしません。それは悲しい事実だけれど、生き残ったものはそれを乗り越えて生きていかなければならないのです。

 「人間のかなしいかったこと、たのしいかったこと、それを伝えるんがおまいの仕事じゃろうが」という父竹造のせりふ。
 それは、井上さんが自身に向けたものであり、読者にゆだねられた井上さんからの遺言のようなものだと思えるのです。
  
(2013/08/06 投稿)

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