12/25/2013 潮鳴り(葉室 麟):書評
書評こぼれ話
クリスマスの日に
こんな素敵な作品を紹介できるなんて。
だから、本を読むのが
やめられない。
今日紹介するのは
葉室麟さんの『潮鳴り』。
直木賞を受賞した『蜩ノ記』と同じ
豊後・羽根藩を舞台にした時代小説。
あの名作『蜩ノ記』を超えられるのかと
心配していたのですが
なんのなんの
それ以上の仕上がり。
大満足の一作です。
この作品は
私が自信をもっておススメします。
今日の書評の書き出しで
「傑作」としようかとも思ったのですが
「絶品」と書きました。
その方が
この作品を表現するのに似合っていると
考えたからです。
ぜひぜひお読み下さい。
じゃあ、読もう。
愛する人の声
絶品である。
生きることの辛さを描くことにおいて。正義を行うことの困難を描くことにおいて。愛を貫きとおす悲しみを描くことにおいて。
葉室麟が第146回直木賞を受賞した『蜩ノ記』と同じ舞台豊後・羽根藩を選んだだけのことはある。受賞作を越えたいという作者の熱が伝わってくる長編時代小説だ。
主人公の伊吹櫂蔵はかつて俊英と呼ばれていたが役目の酒席でしくじり、若くして隠居を命じられる。あとは坂道を転がるように酒におぼれ、身なりに構わず、やがて「襤褸蔵」とまわりから謗りを受けるまでになっていく。
そんな櫂蔵を暖かく包み込む飲み屋の女お芳もまた、かつて思いを寄せた武士に嘲笑うがごとく捨てられた過去を持つ。
「落ちた花は二度と咲かぬのか」。
そんなある日、櫂蔵の異母弟がいわれのない罪により切腹して果てる。自分など生きている意味はないと嘆く櫂蔵は潮鳴りの高まる海へと自らの身を進めるのだが、お芳の必死の思いが寸前で櫂蔵の命を救った。
ふたたび生きることを決心した櫂蔵は、異母弟と同じ役目で出仕を求められ、彼の死の原因をさぐることになる。
誰もが襤褸蔵と呼ばれた男の行状を冷ややかに見つめるなか、櫂蔵はお芳を家に迎え、再生の道を歩むことになる。
けれど、異母弟を死に至らしめたものは藩主をも関わる重く暗い闇で、真相に近づく櫂蔵にさらに残酷な仕打ちが待ち受ける。
櫂蔵は自分たちにとって一番辛いことは死ぬことではなく、「昔のことを忘れられずに、ずっと引きずって生きていくこと」だとお芳から教えられる。
生きることから逃げるのではなく、じっと耐えながら生き続けること。
これは東日本大震災で辛いめにあった被災者やいじめで生きる場所から追い詰められている若者たちへの、葉室麟からの熱いメッセージともいえる。
罠にはめられ死んでしまったお芳の亡骸に涙する櫂蔵が、それでもしっかりと前を向けたのは「生きてください」というお芳の思いだった。
お芳ほど櫂蔵という落ちた花がもう一度咲くことを願った女はいなかった。
櫂蔵は生きることを選ぶ。
「生きよ」という潮鳴りを誰もが耳にしたはずだ。
それこそ、愛する人の声だ。
葉室麟のこの作品はそのことを描くことにおいて、絶品である。
(2013/12/25 投稿)
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葉室麟さんの『潮鳴り』。
直木賞を受賞した『蜩ノ記』と同じ
豊後・羽根藩を舞台にした時代小説。
あの名作『蜩ノ記』を超えられるのかと
心配していたのですが
なんのなんの
それ以上の仕上がり。
大満足の一作です。
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「傑作」としようかとも思ったのですが
「絶品」と書きました。
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この作品を表現するのに似合っていると
考えたからです。
ぜひぜひお読み下さい。
じゃあ、読もう。
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愛する人の声
絶品である。
生きることの辛さを描くことにおいて。正義を行うことの困難を描くことにおいて。愛を貫きとおす悲しみを描くことにおいて。
葉室麟が第146回直木賞を受賞した『蜩ノ記』と同じ舞台豊後・羽根藩を選んだだけのことはある。受賞作を越えたいという作者の熱が伝わってくる長編時代小説だ。
主人公の伊吹櫂蔵はかつて俊英と呼ばれていたが役目の酒席でしくじり、若くして隠居を命じられる。あとは坂道を転がるように酒におぼれ、身なりに構わず、やがて「襤褸蔵」とまわりから謗りを受けるまでになっていく。
そんな櫂蔵を暖かく包み込む飲み屋の女お芳もまた、かつて思いを寄せた武士に嘲笑うがごとく捨てられた過去を持つ。
「落ちた花は二度と咲かぬのか」。
そんなある日、櫂蔵の異母弟がいわれのない罪により切腹して果てる。自分など生きている意味はないと嘆く櫂蔵は潮鳴りの高まる海へと自らの身を進めるのだが、お芳の必死の思いが寸前で櫂蔵の命を救った。
ふたたび生きることを決心した櫂蔵は、異母弟と同じ役目で出仕を求められ、彼の死の原因をさぐることになる。
誰もが襤褸蔵と呼ばれた男の行状を冷ややかに見つめるなか、櫂蔵はお芳を家に迎え、再生の道を歩むことになる。
けれど、異母弟を死に至らしめたものは藩主をも関わる重く暗い闇で、真相に近づく櫂蔵にさらに残酷な仕打ちが待ち受ける。
櫂蔵は自分たちにとって一番辛いことは死ぬことではなく、「昔のことを忘れられずに、ずっと引きずって生きていくこと」だとお芳から教えられる。
生きることから逃げるのではなく、じっと耐えながら生き続けること。
これは東日本大震災で辛いめにあった被災者やいじめで生きる場所から追い詰められている若者たちへの、葉室麟からの熱いメッセージともいえる。
罠にはめられ死んでしまったお芳の亡骸に涙する櫂蔵が、それでもしっかりと前を向けたのは「生きてください」というお芳の思いだった。
お芳ほど櫂蔵という落ちた花がもう一度咲くことを願った女はいなかった。
櫂蔵は生きることを選ぶ。
「生きよ」という潮鳴りを誰もが耳にしたはずだ。
それこそ、愛する人の声だ。
葉室麟のこの作品はそのことを描くことにおいて、絶品である。
(2013/12/25 投稿)
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