05/17/2009 橋をかける:書評

今回の本は、美智子さんの『橋をかける』。
美智子さんって親しそうに書いていますが、
皇后美智子さまのことです。
こういう貴なるお方の本の書評ということですが、
文章表現とかやはり少しは上品になるように
気をつけたのですが。
ただ、書いていることはそのまま、私の思いです。
書評にも書きましたが、美智子さまのお話の中に、
ご自身が読まれた本がたくさん出てきます。
その中に私の読書体験の初めである『ジャングルブック』のことも出てきます。
それを、「モーグリ少年の住んでいたジャングル」というように
話されている。
そうだ、『ジャングルブック』の主人公はモーグリ少年だった。
そのように思い起こされる。
そのように語る人は、どのような立場であれ、
読書人として愛されていいのではないか。
そう思います。
また、皇后美智子さまが新美南吉の「でんでん虫のかなしみ」という
童話のお話もされている。
これもいい。読んでみたくなる、そういう思いにさせるような
思いのこもった話をされる。
子供たちへの読書案内としても有効な、
いい本です。
なお、今回の書評タイトルの「痛みを伴う愛を知るために」は、
皇后美智子さまの講演の最後にでてくる文章の一節です。
![]() | 橋をかける (文春文庫) (2009/04/10) 美智子 商品詳細を見る |


この本には、皇后美智子さまが国際児童図書評議会の二つの大会でなされたふたつの講演と、それにいたる経緯を記した関係者の方たちの文章がいくつか収録されています。
二つの大会とは、1998年のニューデリー(インド)大会と2002年のバーゼル(スイス)の大会です。
ニューデリー大会の時の講演はビデオによるもので、この時話されたのが本書の書名ともなっている『橋をかける』です。
この大会での講演がビデオによるものとなったのは、大会の直前でインドで核実験が行われたという政治的な事情があります。それで急遽ビデオ撮影となるのですが、撮影隊に気をつかわれる皇后美智子さまのお姿など、その間のエピソードをつづった、巻末の「文庫版によせて-皇后さまのご本ができるまで」(末盛千枝子)は読む者の興味をそそる内容です。
「長年かけて準備して来たニューデリー大会に、ご自分の欠席が与えてしまうだろう傷を、最小限にくいとめようと努力」される皇后美智子さまのゆるぎのない姿、「いつも薄化粧で、(中略)そのことについて心配そうにお尋ね」になる細やかな女性としてのたしなみ、など、普段私たちが窺いしることのない皇后美智子さまの表情はとても美しい。
その美しさは、ちょうど五十年前皇太子妃になられてからのご努力もあるでしょうが、子供時代の読書体験が美しさの「根っこ」としてあることが、ふたつの講演に接するとよくわかります。
特に「橋をかける」と題された講演では、子供時代に読まれたたくさんの書名と作者たちの名前が出てきます。おそらく戦時中という出版事情が厳しいなかで、「何冊かの本が身近にあったことが、どんなに自分を楽しませ、励まし、個々の問題を解かないまでも、自分を歩き続けさせてくれたか」という思いにいたるまで、それらの本たちを慈しみ、励まされるようにして読まれていたことと想像します。
そのようにして読まれることで、「読書は、人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。私たちは、複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても。国と国との関係においても」という感慨をいだくまでになられていく。
これこそ、読書がもっている力だと思います。
この国において「皇室」の問題はデリケートですし、まして皇后というお立場であればなおさらです。
しかし、この本に収められたふたつの講演は、皇后美智子さまということではなく、昭和・平成という時代を歩んできた一人の女性の語った、きわめて良質な「読書体験」として読まれていいのではないかと思います。
(2009/05/17 投稿)
特に「橋をかける」と題された講演では、子供時代に読まれたたくさんの書名と作者たちの名前が出てきます。おそらく戦時中という出版事情が厳しいなかで、「何冊かの本が身近にあったことが、どんなに自分を楽しませ、励まし、個々の問題を解かないまでも、自分を歩き続けさせてくれたか」という思いにいたるまで、それらの本たちを慈しみ、励まされるようにして読まれていたことと想像します。
そのようにして読まれることで、「読書は、人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。私たちは、複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても。国と国との関係においても」という感慨をいだくまでになられていく。
これこそ、読書がもっている力だと思います。
この国において「皇室」の問題はデリケートですし、まして皇后というお立場であればなおさらです。
しかし、この本に収められたふたつの講演は、皇后美智子さまということではなく、昭和・平成という時代を歩んできた一人の女性の語った、きわめて良質な「読書体験」として読まれていいのではないかと思います。
(2009/05/17 投稿)
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