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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は第150回直木賞受賞作2作のうちのひとつ
  姫野カオルコさんの
  『昭和の犬』を紹介します。
  この長い物語、
  一つひとつの章が
  「ララミー牧場」とか「逃亡者」といった
  昭和の人気テレビ番組の名前が
  つけられていて
  これは単行本化するにあたっての工夫のようですが
  いい効果を出しています。
  選考委員たちの評も
  すこぶるよくて
  満票に近い受賞だったようです。
  昨日紹介した「オール讀物」3月臨時増刊号を
  お読み下さい。
  東野圭吾さんが今回初選考ですが、
  その初々しい選評が
  いいですよ。
  受賞会見ではジャージ姿で話題を呼んだ
  姫野カオルコさんですが
  女性こそ度胸、
  そんなふうに感心していました。

  じゃあ、読もう。

昭和の犬昭和の犬
(2013/09/12)
姫野 カオルコ

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sai.wingpen  名犬ラッシーに夢中になった時代                   

 第150回直木賞受賞作。(2014年)
 失礼な話かもしれないが、姫野カオルコが直木賞を受賞したという報に、意外な感じがした。作品そのものは知らずにきたが、その筆名の不思議感、最初に直木賞候補作となった『ツ、イ、ラ、ク』の印象的な作品名などで耳目にとまる作家だったからだ。『ツ、イ、ラ、ク』は2004年の作品である。
 「苦節何年」という言い方は最近しなくなったが、そもそも苦節をしてもらうほど有難い賞があるかどうか賞自体の権威も変遷している、姫野にとって直木賞はもうとっくに通過してきたラインだったような気がしたからだ。
 選考委員の中で「こんなにうまい作家だったと思わなかった」という言葉がでたとも聞くが、これはあまりにも姫野にとって失礼な話だろう。
 もっとも、そんなことに動じていては、姫野らしくもないが。

 物語は昭和33年生まれのイクという女性と、その人生をともに歩んでき何匹かの犬の話、「イクと犬のパースペクティヴ」とあるが、「パースペクティヴ」というのは「遠近法」のこと。
 「そのころは今から見ると遠くにあり、小さい。だが、そのころまで近づくと大きい。大きくてすべてを掴めない。(中略)今いるところまで瞬時に視点を引けば瞬時に小さくなり、掴める」、そのようにして描いたのは、「昭和」という時代。
 イクの生まれた(作者の姫野自身も同じ)昭和33年というのは、戦争が終わって10年余りしか経っていなく、まだあちらこちらに戦争のあとが残っていた時代であった。
 イクの個性的な父親はシベリアでの抑留生活でなにごとかを心の奥にしまったままであるし、母もまた変わった存在である。
 あの時代、日本中が戦争のことを忘れようとしながら、目にするものがまだ生々しいものだったともいえる。

 ただ、姫野のこの長編は主人公が小さい頃の話よりも成長し東京で暮らし始めて以降の方が断然面白い。
 選考委員の一人、桐野夏生は「昭和という時代の「翳り」がうまく描かれている」と評しているが、その「翳り」が出てきたのはイクが大学生の頃、昭和50年あたりかもしれない。
 若い人には遠くになった「昭和」だが、団塊世代や姫野の世代にとってはどこかで「総括」をしなければならない風景でもあるだろう。
 そういう点では、第150回という節目の賞にふさわしい受賞作だといえる。
  
(2014/02/19 投稿)

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