03/19/2014 山桜記(葉室 麟):書評「華やかな表舞台に出なくても」

今週は
月曜の川上弘美さん、
火曜の花房観音さん、
そして、今日の葉室麟さんと
いまの私のお気に入り作家の
作品が続きます。
今日紹介する『山桜記』は
葉室麟さんの30冊めにして
初めての短編集です。
最近は年間6冊ほどのペースで
出版されているようです。
書きすぎだと
編集者におこられるそうですが
デビューが遅かった分、
自分に残された時間を
考えると
書くしかないと思っておられるようです。
書きたいことが
たくさんあるんでしょうね。
ところで
葉室麟さんの短編の出来ですが
長編のような余韻は少ないけれど
実がひきしまっていると
思いました。
じゃあ、読もう。
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葉室麟の初めての短編集である。
葉室は長編小説の作家かと思っていたが、自身は「書きたいテーマを鮮明に打ち出せる」から短編が好きだという。
この本に収められた7つの短編のテーマは「武将の妻の姿」といってもいいだろう。
そもそもが葉室の描く女性たちの姿は清々しい。心に秘めたものがまっすぐで気持ちがいい。
葉室が求める女性像なのかしらん。
7つの短編の中でも印象深いのが、「くのないように」だ。
作者自身、最初にタイトルが決まったというように、いい題名だ。
主人公は、加藤清正の娘八十姫。父清正が徳川方によって毒殺されたという噂もある中、徳川家康の十男頼宣に嫁ぐことになる。その輿入れ道具の中に、清正ゆかりの槍が収められていた。それは父清正の言い遺したことだという。
敵を討てということなのか、八十姫の心は揺れる。
八十姫は紀州藩の藩主となった頼宣とともに和歌山へと赴き、平安な生活を送っているが、実家の加藤家の取り潰しや後に「慶安の変」と呼ばれる由比正雪の乱などに巻き込まれ、再びあの父清正の槍の意味と向き合うことになる。
さらには自分の名前八十姫の意味も。
ここに題名「くのないように」に生きてくる。八と十の間にある九。父清正が娘に苦労がないようにと願ってつけた名であった。
では、槍の意味は。それは本作を読んでいただきたい。
この「くのないように」では「慶安の変」が借景のように描かれているが、ほかの作品でも歴史上有名な事件が使われている。
「伊達騒動」として有名な原田甲斐による事件が描かれているのは、「牡丹咲くころ」(この作品も先に題名が決まったらしい)。主人公は伊達家から格下の立花藩に嫁いだ鍋姫。若き頃に出会った原田甲斐のおもかげと何故自分が立花藩に嫁ぐことになったのかが物語とともに明らかになっていく。
葉室が先に題名の決めたもうひとつの作品が「ぎんぎんじょ」という短編。
鍋島直茂の妻彦鶴が主人公。「ぎんぎんじょ」は姑からもらった言葉。戦国の時代にあって、「穏やかで慎み深くあれ」という、姑の教え。
武士の時代、女たちはけっして華やかな表舞台に出ることはなかったはずだ。
けれど、山に咲く桜が一目を開かせるように、女たちはいつも可憐であったと、葉室麟は思っているにちがいない。
(2014/03/19 投稿)

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