FC2ブログ
プレゼント 書評こぼれ話

  今回は瀬戸内寂聴さんの『奇縁まんだら 続』を紹介します。
  「続」とあるように、「正」もあります。
  すでに、このブログでも紹介しましたね。 
             みぎ 『奇縁まんだら』の書評
  
  この『奇縁まんだら 続』も日本経済新聞に連載されていたものです。
  単行本では「円地文子」「萩原葉子」「島尾敏雄」の三人の「奇縁」が、
  書き下ろしで収められています。
  今回の「続」の書評では、横尾忠則さんの挿画の素晴らしさを
  できるだけ書くように心がけました。
  うまく伝わったか、どうか。
  話は変わるのですが、瀬戸内寂聴さんでどうしても
  書いておきたいことがあります。
  5月22日の朝日新聞に掲載された、本についての瀬戸内寂聴さんのコメントです。
  「国民読書年」の特集記事の中にありました。
  瀬戸内寂聴さんは、子供時代に本に夢中になった話をされています。

    文学の力というものに、圧倒的に魅了された。
    それは人に教えられたのではなく、本そのものが教えてくれた。

  と書いています。だから、
  子供の頃からの読書習慣は大事だし、本の選択は子供に任せればよいと言います。
  そのうえで、ここからがいいですよ、こう言います。

    読書の究極の恵みは、
    自分を識(し)り、他者を理解する力を与えられることだ。

  瀬戸内寂聴さんがいう「他者を理解する力」は大事です。
  そういうことを考えながら、『奇縁まんだら』(正・続)を読むと、
  また面白いのではないでしょうか。
  
奇縁まんだら 続奇縁まんだら 続
(2009/05/16)
瀬戸内 寂聴

商品詳細を見る


sai.wingpen  横尾忠則の描く中上健次はやはり強そう          矢印 bk1書評ページへ

 今回は書きこぼさないうちに、「正・続」二冊の横尾忠則の挿画について、まず書いておく。
 正編には五十三点、続編には五十四点の挿画が収められているが、これが実にいい。本から切り取って飾っておきたくなるくらいにいい。
 横尾忠則自身、この正続二冊で紹介される瀬戸内寂聴の「奇縁」の人々に面識があったのかどうかはわからないが、ああきっとこの人はこのようであったのだろうと思わせる生気を感じさせるものが、彼の絵にはみなぎっている。
 たとえばこの続編にあるオペラ歌手藤原義江の二枚の肖像画は、もうそれだけで心が打ち震えてしまうような二枚目ぶりが見事に描かれている。さすが「和製ヴァレンチノ」と呼ばれた人はこうであったにちがいない。
 あるいは、「ブルースの女王」淡谷のり子の二枚の肖像画。一枚は花びらにうまるかのような華やかさに若い淡谷が微笑むもの、常に華やかさを誇りにした淡谷の心情をよくとらえている。そして、もう一枚のほとんど灰と黒の暗い色調のものは、軍歌を拒否した彼女の強さと時代の暗さが同化しているようである。
 横尾の魅力はその色づかいにあることは間違いない。実際生存した人物という具体を描きながらも、その色づかいにより、抽象に気化されてそれはやがて普遍になっていく。
 この本で描かれたすでに亡き人々は、瀬戸内寂聴の文章と横尾忠則の画によって、もはや死の世界ではなく、誰にも冒されることのない彼岸にたどりついたのではないだろうか。

 この続編には、菊田一夫、開高健、フランソワーズ・サガン、中上健次、淡谷のり子といった、瀬戸内寂聴と「奇縁」のあった二十八人の作家や芸能人の姿が描かれている。
 「瀬戸内さんを羨ましいと思うのは、ぼくが絶対逢えない歴史的作家にほとんど逢っていることです」と若い平野啓一郎が話したといい、それと同じ感慨を瀬戸内自身がかつてもったことがこの本の中に書かれているが、それでも瀬戸内の、逢うことを怖れない前傾の性格がこれほどに多くの作家、芸能人との縁をもたらせたといえる。
 正編の「はじめに」で、「生きるということは、日々新しい縁を結ぶこと」と瀬戸内は書いた。
 瀬戸内はこの『奇縁まんだら』(正・続)を書くことで、彼岸の人たちとまた新しい縁を結びえたかもしれない。
  
(2009/06/04 投稿)

Secret

TrackBackURL
→http://hontasu.blog49.fc2.com/tb.php/214-f3995439