08/08/2014 架 (百年文庫)(火野 葦平、吉村 昭 他):書評「作者の創造力が試される作品群」

今日は「百年文庫」の
95巻めとなる「架」を紹介します。
この中に
吉村昭さんの『少女架刑』という作品が
はいっています。
私は吉村文学が好きですが
どちらかといえば初期の作品の方が
好きです。
初めて吉村文学に出会ったのが
高校生から大学生の頃というのもあったのですが
その頃まだ
吉村昭という作家は
自身の生と死のはざまを生きた体験を
作品にする人だと思っていました。
『少女架刑』もそのようにして
読んだ作品です。
この作品と出会って
40年近い時間が流れていますが
とても懐かしい気分で
読みました。
その時の感想なりが残っていないのが
残念ですが。
じゃあ、読もう。
![]() | 架 (百年文庫) (2011/10) 火野 葦平、吉村 昭 他 商品詳細を見る |

「百年文庫」シリーズの特長の一つに、そのタイトルがある。
いずれの巻も漢字一文字で表わされている。収録されている短編がいずれもその漢字と何らかな関係をもっている。
95巻めとなる本書のタイトルは「架」。
十字架の、「架」であるし、架空の「架」でもある。
この漢字の読みはもちろん「か」であるが、その意味は「上にかけ渡す」だそうだ。つまり、「架空」というのは、字の如く空中に架け渡すことだが、そこから「根拠がないlこと」を指す言葉になったのだろう。
この巻では、そんな「根拠がない」短編3篇、火野葦平の「伝説」、ルゴーネスの「火の雨」、それと吉村昭の「少女架刑」、が収められている。
「百年文庫」で珍しく、吉村昭は新しい作家である。2006年に亡くなっているから、このシリーズに収録されたのであろう。
「少女架刑」は吉村の作品の中でも初期のものである。
吉村が作家を志していた頃、自身の左胸部の肋骨切除により死から逃れたという体験からなかなか抜け出せないでいた。それらの作品群はけっして嫌いではない。
むしろ私が吉村を知ったのは、そういう生と死との際どさが魅力だと感じてもいた。
「少女架刑」はその頃の作品である。
物語を語るのは、すでに死人となった少女である、彼女の視点で、死人となったあとの自分が語られていく。献体として病院で刻まれていく少女。そのことを冷静の語る少女は、かつて死と隣り合わせだった吉村の心のありようを体現した存在といえる。
吉村昭という作家を知るためには、このような初期作品は見逃せない。
「伝説」の火野葦平は戦争中に『糞尿譚』で芥川賞を受賞した作家であるが、芥川賞受賞作よりも『花と竜』『麦と兵隊』で知られている。また、河童が好きで、河童をテーマに多くの作品も残している。
収録されている「伝説」も河童を主人公にした摩訶不思議な作品だ。
河童は架空の生き物としての人気も高い。
もう一編は、アルゼンチンの作家ルゴーネスの「火の雨」。町に突然火の雨が降り注ぐという物語だが後にスペイン語圏におけるSFファンタジーの先駆けといわれた作品だけあって、面白い。
いずれの作品とも現実(リアル)な作品ではない分、作者の創造力が試される作品である。
(2014/08/08 投稿)

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