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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は「百年文庫」の48巻め
  「」を紹介します。
  書評の冒頭に
  茨木のり子さんの「水の星」という詩の一節を
  紹介していますが
  こんな一節もあります。

    生まれてこのかた
    なにに一番驚いたかと言えば
    水一滴もこぼさずに廻る地球を
    外からパチリと写した一枚の写真

  この感受性には感服します。
  地球の写真を見て
  なかなかそこまで思う人は
  いないんじゃないかな。
  この巻では
  八木義徳の「劉廣福」が収録されていますが
  この作品は第19回芥川賞受賞作です。
  八木義徳が受賞の報を知ったのは
  戦地での行軍の途中だったと
  いいます。
  芥川賞受賞作といっても
  今ではなかなか読めない作品ですので
  ぜひこの機会に読んでみては
  いかがでしょうか。

  じゃあ、読もう。

(048)波 (百年文庫)(048)波 (百年文庫)
(2010/10/13)
菊池寛、八木義徳 他

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sai.wingpen  いのちの豊饒を抱えながら                   

 海は地球の7割をしめている。
 「いのちの豊饒を抱えながら/どこかさびしげな 水の星」というのは、茨木のり子さんの詩「水の星」の一節だ。
 「いのちの豊饒」ながら、時には津波や水害などの厄災をもたらすのも、また海。
 けれど、私たちの営みに欠かせないのも、海といっていい。
 波に象徴されるように、海は生きている。大きな波、静かな波、寄せるもの、ひくもの。
 だから、それを人生に喩えることも多い。「運命の波に翻弄された」みたいな言い方もする。
 「百年文庫」48巻めのタイトルは、「波」。
 海を舞台にしたものもあるが、ここでは人生の「波」と読んでいいだろう。
 菊池寛の「俊寛」、八木義徳の「劉廣福」、シェンキェヴィチの「燈台守」の3篇の短編が収められている。

 八木義徳の「劉廣福」は第19回芥川賞受賞作(1944年)。
 戦時中の工場を舞台に無骨な中国人の主人公劉廣福がその誠実な人柄で次第に人々の信頼を得ていく姿を描いている。
 劉に大きな人生の波があるようには見えない。どんな仕事であれまじめに努める彼の生き方は静かだ。
 波というのがあれば、そんな彼を妬んで同僚が彼を窃盗犯に仕立て上げようとしたことと工場の火災を消しとめるために大やけどをおった時ぐらいであろうか。
 そんな時でも「たいしたことはない」という劉の人間の大きさに打たれる作品だ。

 菊池寛の小説は最近ではあまり読む機会がないが、この巻に収録されている「俊寛」を読むとその巧さに感服する。
 大衆小説のコツをしっかりつかんだ筆運びだ。
 俊寛は後白河上皇の側近で平家打倒と目論んだ歴史上の人物。企みが発覚して俊寛は鬼界ヶ島に流刑となったが、菊池寛はこの島での俊寛の生き方を短い作品ながら重厚に描いている。
 芥川賞と直木賞を創設した菊池寛だが、自身はどちらの作品の方が好きだったのだろう。

 もう一つの作品「燈台守」はシェンキェヴィチという人の作品。
 シェンキェヴィチはポーランドの国民的作家で、1905年にノーベル文学賞を受賞している。
 この作品は孤独な仕事である燈台守の職を得た初老の男がたまたま手にした一冊の本からかつての故郷への思いで規則正しくおこなっていた仕事を怠ってしまう物語。
 こういう作品はなかなか読めないが、それを読めるのも「百年文庫」の魅力の一つだ。
  
(2014/09/12 投稿)

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