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06/22/2009    劇画漂流 上巻:書評
プレゼント 書評こぼれ話

  先日講演記録を書きました「手塚治虫文化賞」で、
  マンガ大賞を受賞された、辰巳ヨシヒロさんの『劇画漂流』を
  やっと読み終えましたので、今日と明日、
  その書評を書いてみます。
  この本は漫画本です。
  でも、上下二巻でしかも分厚い。
  それに内容も面白く、読み応え十分な本です。
  漫画というよりも、劇画が誕生するまでの歴史が
  よーくわかる本です。
  辰巳ヨシヒロさんは昔「COM」とかを読んでいた頃に
  いくつか読みましたが、
  社会の底辺で生きる人々を描いた、
  暗い作風が印象に残っています。
  だから、まったく未知の漫画家ではないのですが、
  「劇画」の生みの親だというのは知りませんでした。
  この上巻では手塚漫画ではない漫画を模索し始める、
  主人公の苦悩がよく描かれています。
  当時の彼らにとっては、映画の表現方法が
  参考になったようですね。
  でも、それもやはり手塚治虫さんが初めていたことです。
  手塚治虫さんが雑誌の世界にいって十分な表現空間を持たなくなったことで
  それがどんどん子ども向けになっていく。
  辰巳ヨシヒロさんにとって、そういう手塚治虫は反面教師のような
  存在であったかもしれません。

  明日の下巻の書評では、
  「劇画」とは何かを書いてみたいと思います。
  
劇画漂流 上巻劇画漂流 上巻
(2008/11/20)
辰巳 ヨシヒロ

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sai.wingpen  漫画と劇画のはざまで 上              矢印 bk1書評ページへ

 第13回「手塚治虫文化賞」マンガ大賞受賞作品。
 漫画家辰巳ヨシヒロの上下およそ900頁にも及ぶ、渾身の自伝的青春漫画である。
 考えれば、劇画ほど「漫画の神様」手塚治虫を苦しめたものはなかったのではないだろうか。劇画がその勢力を拡大するなかで、手塚の(子ども向け)漫画は時代遅れのレッテルを貼られ、もう手塚の時代は終わったとまで揶揄されるようになる。しかし、周知のように手塚は劇画の手法を取り入れながら大人が読みうる漫画作品を後年続々と発表していく。そのような劇画の歴史を扱った作品が手塚治虫の名前を冠とする賞を受賞するのであるから、文化とはなんと懐深い流れであろう。
 漫画評論家の印口崇はマンガ大賞の受賞選評の中で「手塚治虫の対極的な存在であると認識していた劇画の原点が、手塚治虫漫画から出発していることを知り、感激した」と書いている。
 この上巻に作者辰巳ヨシヒロを模した主人公ヒロシが手塚治虫と出会う場面がある。それが暑い日であったと辰巳はいつまでも記憶している。
 当時の多くの漫画少年にとって手塚治虫はあこがれであり、目標であったことがよくわかる。その後劇画という世界を作り出す辰巳にとってもそうであった。
 やがて、漫画家になる主人公は手塚の漫画世界では表現できないものを模索し始める。そういう意味では印口がいうように「劇画の原点が、手塚治虫漫画から出発している」という見方は正しい。ただ、そう単純に説明できないものがあるのも事実で、やがてそのことが劇画家内部でも衝突を生んでいくのではある。

 印口は選評でさらに「今まであまり知られることのなかった、戦後すぐの関西における漫画出版事情が語られていることは出版文化史において重要な一冊であると考える」としている。同様に、選者の評論家中条省平は「敗戦から安保闘争に至る日本戦後史の記録でもあり、様々なアングルから読むことができる力作」と賛辞をおくっている。
 また下巻所載の「解説」でマンガ研究家の中野晴行は「昭和30年代前半の貸本マンガ全盛期の状況が絵としてしっかり記録された」意義は大きいとしている。
 いずれの文章にもあるように、この大作がそういった記録性も持ちえたことは大きいし、それは同時に、漫画という表現手段で戦後の歴史が表現できるまで、漫画文化が熟成されてきた証明であろう。

 まさに劇画の世界を支えてきた辰巳ヨシヒロならではの、大きな成果である。
  
(2009/06/22 投稿)
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