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06/23/2009    劇画漂流 下巻:書評
プレゼント 書評こぼれ話

  昨日に続き、今日は辰巳ヨシヒロさんの『劇画漂流』下巻の書評です。
  書評の中で「劇画」についての辰巳ヨシヒロさんたちの
  見解を紹介しましたが、特に、
  辰巳ヨシヒロさんが自ら書いた「劇画工房」旗揚げ時の挨拶状の内容は
  大変興味をひきます。
  本書下巻でもその時のハガキがそのままコマの中で使われていますが、
  小さくてなかなか読めません。
  書評の中で引用したのは、佐藤まさあきさんの著作からのものです。
  それ以外にも、この下巻には面白いエピソードがあります。
  それはつげ義春さんがあの有名なトキワ荘を訪れる場面です。
  つげ義春の世界と赤塚不二夫の世界が見事に
  交差していきます。
  わずか数コマのエピソードですが、漫画の歴史を思うと、
  とても印象に残ります。
  今回の下巻には、この作品が出来上がるまでの経緯を書いた、
  辰巳ヨシヒロさん自身による「あとがき」(これもいいですよ)と、
  マンガ研究家中野晴行さんの「解説」がついています。
  漫画の歴史に興味のある人にとって、
  この『劇画漂流』上下巻は貴重な作品になると思います。
  
劇画漂流 下巻劇画漂流 下巻
(2008/12)
辰巳 ヨシヒロ

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sai.wingpen  漫画と劇画のはざまで 下                矢印 bk1書評ページへ

 漫画家辰巳ヨシヒロとは何者か。
 上下巻およそ900頁に及ぶ、自伝的青春劇画である本作を読めば、辰巳が、あるいは辰巳の仲間たちが成し遂げてきたことがよくわかる。本作にも登場する佐藤まさあき(2004年没)の『「劇画の星」をめざして』と題された<劇画内幕史>の中で、佐藤は辰巳のことをこう書いている。「彼なくしては、こんにちの劇画の発展はなかったと思う」と。
 佐藤は表現方法として「マンガであることを離れ、劇画に移行していった」のは辰巳の『開化の鬼』が最初であろうとしている。この頃の辰巳の苦悩は本作上巻でよく描かれている。
 その後辰巳や佐藤、それにさいとうたかをらが貸本ブームに乗って「劇画工房」を旗揚げする。その時の挨拶状は本作下巻に中にも登場するが、その中にこんな表現がある。当時の挨拶状からの引用である。
 「劇画と漫画の相違は技法面でもあるでしょうが、大きくいつて読書対象にあると考えられます」とし、「劇画の発展の一助は貸本店にあるといってもいいと思います」とその流通経路まで見据えている。
 佐藤は先に紹介した本の中で「”劇画”という呼称を最初に考えたのは辰巳ヨシヒロである」と明言している。しかし、辰巳が考えていたマンガと劇画の関係は「劇画工房」内部でも意見がわかれる。辰巳はそのことも本作の中で描いている。まず辰巳であるが、彼は劇画は漫画の一部であるとした。一方、さいとうたかをはまったく別なものと主張する。
 こういう意見の相違や金銭的なごたごたがあって「劇画工房」は解散していくのであるが、劇画とは何かという本質的な議論のあいまいさが単に過激で激烈な漫画が劇画であるという誤った見方として広がっていくことになる。

 辰巳によればこの作品は「貸本屋の終焉まで」を描く予定であったというが、残念ながら六〇年安保の熱い点景とともに閉じられる。
 辰巳ヨシヒロが考えた劇画が「貸本屋」とともにあったことを考えると、本作の続きを読みたいところでもあるが、いまはやむをえない。
 「手塚治虫文化賞」マンガ大賞受賞で、そういう場がもういちど辰巳に与えられることを期待している。
  
(2009/06/23 投稿)

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