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プレゼント 書評こぼれ話

  まだまだ太宰治です。
  今回紹介するのは先に紹介しました『女が読む太宰治』と同時刊行されました、
  ちくまプリマー新書の『若いうちに読みたい太宰治』という本です。
  書いたのは、『声に出して読みたい日本語』シリーズでおなじみの、
  齋藤孝さん。
  『女が読む太宰治』よりも読みやすいですね。
  若い人にはこちらの方を薦めますね、やっぱり。
  この本では太宰の18作品が紹介されていますが、
  それぞれに「自習」のような「宿題」のような欄がついています。
  例えば『人間失格』には、
  「世間とは自分にとってどんな意味を持つのだろうか」みたいな
  問いがみっつ。
  これって、ご愛嬌。
  太宰はそういうこと絶対しなかったような気がしますけれど。
  それに、そういうこととうまく折り合いがつかない人が、
  太宰に近づくのではないかしら。
  あちらの世界で太宰はどんな顔してるのでしょうか。
  なお、今回の書評のタイトルは、
  太宰の『新樹の言葉』の一節からとりました。
  この本で紹介されていました。

    君たちは、幸福だ。大勝利だ。そうして、もっと、もっと仕合せになれる。

若いうちに読みたい太宰治 (ちくまプリマー新書)若いうちに読みたい太宰治 (ちくまプリマー新書)
(2009/05/09)
齋藤孝

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sai.wingpen  君たちは、幸福だ。                矢印 bk1書評ページへ

 生誕100年にわく太宰治であるが、最近の数多い太宰についての文章にあまり「私小説」という言葉が聞こえてこないのがうれしい。
 「私小説」というやっかいな表現方法がかつてほど論じられなくなったということかもしれないし、こと太宰についてはそれ以上に「語り口」や「ユーモア」といった魅力が見直されているとみていいのではないだろうか。
 中学生や高校生といった若い世代向けに書かれた本書でも「太宰治の小説は、太宰治の実話のような気がして、読者がそこに入り込んでしまうという魅力もあります」(146頁)といった表現程度にとどめられている。
 決して太宰の人生を深追いしない。
 太宰治ほどその「人物論」で語られる作家はいない。そのことを全部否定するつもりはないし、私も太宰の人生を多くの関連本でたどったことがある。
 ただ作品を読む段にそれらが何よりも優先するかといえば、やはりそうではないというべきだろう。特に太宰の場合、自身の数奇な人生が作品と重なりあう部分にあまりにも魅力がありすぎ、そういう傾向に陥りやすいが、太宰自身を突き放すことでさらに太宰文学の多方面なよさを実感できるように思う。

 著者の齋藤孝は太宰の代表作ともいえる十八の作品を読み解きながら、太宰の「人間を捉える眼力と、それを手に取るように表現する言葉の力」(12頁)をうまくまとめあげている。そういう点では若い人や太宰初心者には格好なガイドブックといっていい。
 齋藤は「傷つきやすさ」が太宰の特徴であり、「社会的にポジションが定まっていない状況の焦り」が若い頃の悩みなどとよく似ているという。だから、太宰を「十代、二十代でもっとも共感できる作家」と評価している。
 柔らかな心に自然と身をよせてくるのが太宰だ。気がつけば読み手の肩を抱きしめるように立っている、それが太宰治だ。
 そんな太宰をぜひ味わい尽くしてもらいたい。
  
(2009/06/24 投稿)


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