プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介するのは
  葉室麟さんの『風かおる』。
  「風薫る」というのは、夏の季語にあります。
  「薫風」ともいいます。
  ちょうど木々の緑の香りを運んでくるような季節感でしょうか。

    風薫る羽織は襟もつくろはず     松尾 芭蕉

  そのタイトルのような作品といいたいけれど
  少し湿っぽいかな。
  すかっとした薫風という感じでもないのが
  残念。
  最近本屋さんに行くと
  葉室麟さんの新作が立てつづけに
  出版されているのがわかります。
  書きたいことがたくさんあるのでしょうが
  じっくりと腰を落ち着けた
  葉室麟ワールドに
  ひたりたいと思います。

  じゃあ、読もう。



sai.wingpen  風がかおるように生きなければ                   

 人は時に自分が想像もしていない悲しみや辛さを他人に与えてしまうことがある。
 葉室麟のこの作品は、そんな人の悲しみを描いた長編小説だ。
 物語の舞台は葉室の得意とする九州黒田藩。
 鍼灸医の夫を持つ菜摘が物語の進行役である。彼女は夫の指導のもと、鍼灸だけでなくオランダ医学にも通じて、夫が長崎に修業をしている間、博多で診療をしている。
 菜摘を慕う千沙は男みなりのまま成長し、16歳の頃には縁談話もくるようになっている。けれど、千沙は菜摘の弟誠之助に魅かれている。
 菜摘、千沙、誠之助、もちろん物語の主要な人物だが、主人公とまではいえない。
 主人公はおそらく菜摘が小さい頃養父であった竹内佐十郎であろう。

 佐十郎はかつて藩の新進気鋭の若者だった。その才を買われて長崎聞役に任じられたことがある。ところが、妻に密通の疑いが生じ、佐十郎は妻敵討ちのため致仕し国を出た。
 佐十郎はその妻を討ったとして十年ぶりに国に戻るのだが、彼には別の目的があった。
 それは、自分を妻敵討ちへといざなった男への仕返しである。
 旅に病んだ佐十郎は若い頃に思いを寄せた多佳のもとに身を寄せる。
 そこに呼ばれたのが、かつての養女菜摘であった。
 やさしかった父が何故に仕返しなどを目論むのか、しかも残された生はわすかであろう父を思って、菜摘は佐十郎の相手を探すことになる。

 ここまで書けば、佐十郎は誰かの陰謀によって藩を追われた者ということになろう。
 しかし、佐十郎の相手がじわりじわりと核心に近づいてくるうちに、読者は驚くべき事実をつきつけられる。
 それはここでは書けないが、それこそ佐十郎の長くて悲しい、人生模様といえるだろう。
 例えば、人を愛するという純粋な思いも、もしかすればそのことで他の人を知らない間に傷つけているかもしれない。

 すべてが終わった時、菜摘たちは「風がかおるように生きなければ」と誓うのだが、風がかおる生き方こそ自身に胸をはったものなのだろう。
 彼女たちにそれを教えたものこそ、この物語の主人公かもしれない。
  
(2015/10/21 投稿)

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