FC2ブログ
07/21/2009    旅をする木:書評
プレゼント 書評こぼれ話

  残り時間10時間を切りかかって、
  ようやく文春文庫創刊35周年記念の、
  「いい男感想文」を書き終えました。
  今回私が書いたのは、
  星野道夫さんの『旅をする木』です。
  「いい男」とはどういう男のことをいうのか、
  そのイメージは人さまざまでしょうが、
  星野道夫さんの精悍な生き様も「いい男」といっていいと思います。
  この文庫本の、池澤夏樹さんの解説の中で、
  池澤夏樹さんは「書物というものの最高の機能は、幸福感を伝えること」と
  書いています。
  星野道夫さんの文章は、そんな幸福感に満ちています。
  たぶん、私はこれからも何度も、
  星野道夫さんの文章に戻ってくるでしょう。
  そんな思いが、今回の書評のなかに表れていればいいのですが。

  ◆「ブログランキング」に参加しています。
  下の「ひよこちゃんバナー」をクリックして下さい。

  

旅をする木 (文春文庫)旅をする木 (文春文庫)
(1999/03)
星野 道夫

商品詳細を見る


sai.wingpen  火を運ぶ者               

 人生は旅に似ている。
 あるいは、旅は人生に似ているだったかもしれない。
 十代の時にめぐりあった一枚のアラスカの写真に魅せられたあと、その突然の死にいたるまでの時間の多くを北極の大地で過ごした星野道夫の人生もまた旅に近いものであったかと思う。
 アラスカに行って十五年の時を経た星野の新しい決意を綴った「新しい旅」から始まり、吹雪の北極圏で初めての子どもの誕生を知る「ワスレナグサ」までの三十三篇の、美しく、背筋ののびた文章の数々には、厳しい自然とのかかわりやアラスカの人々との温かな交友が描かれている。それらもまた、星野道夫の人生であり、旅の姿である。
 そんななかで、「人々が動物を求めてさまよっていた昔、寒い冬の旅では足の速い者が火を運んだ」というインディアンの古老の物語を、星野は書きとめている(「ビーバーの民」)。「一度手にいれた火」を大切に運びつづけた人たちの物語である。火を運ぶ者は、常に仲間たちよりも先を行き、火を確保しつづける。私たちは遠い昔からそのように旅をしてきたのだ。
 星野道夫が残した文章や写真は、彼につづく私たちに、旅をする勇気や生きる喜びを与えつづける。それを思うとき、星野道夫もまた、「火を運ぶ者」として、私たちの先を走る者だったにちがいない。
 「何も生み出すことのない、ただ流れてゆく時間を、大切にしたい」。
 星野道夫の、このように柔らかい言葉の数々は、私たちにぬくもりを与えつづけてくれる。
 人生という旅に「火を運ぶもの」としてありつづけた星野道夫が残した、ともし火。
 その暖かさと明るさに、私たちの旅はどれほど勇気づけられることだろう。
  
(2009/07/20 投稿)

Secret

TrackBackURL
→http://hontasu.blog49.fc2.com/tb.php/267-dc34823f