プレゼント 書評こぼれ話

  今は正月といっても
  街を歩けば
  コンビニもスーパーも営業しているし
  年が新たまるという気分は
  なかなか味わません。
  私が子どもの頃、
  昭和30年代ですが
  新しい年には下着も
  真新しいものに替えたものです。
  今はとてもとても。
  時代の潮流といえば
  それまでですが、
  ああいう新鮮な気分で年が新らしくなっていくというのは
  いいものです。
  毎年、最後の一冊に
  どんな本を紹介しようかと
  悩みます。
  今年は詩人の吉野弘さんの
  『くらしとことば』というエッセイにしました。
  吉野弘さんの
  日常を優しくみつめる視線が
  好きです。
  どんなに時代が変わっても
  吉野弘さんのような視線を
  忘れないでいたいものです。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  紐の結び目                   

 詩人吉野弘さんといえば、「二人が睦まじくいるためには/愚かでいるほうがいい」と始まる有名な『祝婚歌』という作品があります。今でも結婚式にはこの詩を詠む人も多いと思います。
 この詩にはこれから新しい家庭を築こうという若い人への温かなメッセージを感じます。
 ここから始まって、子どもが生まれる。そうしたら、「お父さんが/お前にあげたいものは/健康と/自分を愛する心だ」と詠われた『奈々子に』を読めばいい。
 そして、年を重ねていけば、『夕焼け』という詩に詠まれた、満員電車の中で何度も自分の席をゆずる少女の心に触れるといいでしょう。「やさしい心の持ち主は/他人のつらさを自分のつらさのように/感じるから。」
 吉野弘さんの詩は一生ものだということがよくわかります。

 この本はそんな吉野弘さんのエッセイ集『遊動視点』が文庫化されたものです。正しくは元の本の前半部分は、この文庫にあたります。
 エッセイでも吉野さんの詩がもっている温かはそこかしこにあふれています。
 「紐の結び目をほぐそうとして、中々ほぐせないことがある。」という文章で始まる、「紐をほぐす」というエッセイがあります。その終わりの一節はこうです。「愛情という名の紐だけは、できれば一生結びっぱなしでありたい。その結び目を苦労してほぐすなんて、ごめんこうむりたい気がする。」
 まるで詩『祝婚歌』のエッセイ版を読んでいるようです。
 そのあと、「ただ、思い通りにゆくかどうか。」とあるのは、少し醒めた詩人の一言でしょうか。

 あるいは「会釈・挨拶・いい会話」というエッセイには詩人の心がよく表れている文章があります。
 「言葉が乱れていると感じられことの実体は、心が不在ということ」とあるのは、席を替わりながら恥ずかしげにしている『夕焼け』の少女が持っていたものの不在が、言葉の乱れにもつながっているといわれているような気さえします。

 日常のこと、家族のこと、言葉のこと、そこには暮らしと寄り添った吉野弘さん自身の、温かな心があります。
  
(2015/12/30 投稿)

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