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07/23/2009    熊になった少年:書評
プレゼント 書評こぼれ話

  今回紹介しました、池澤夏樹さんの
  『熊になった少年』を、本屋さんの店頭で見つけた時には
  本当に心があわ立つような思いになりました。
  それは、今回の書評にも書きましたが、
  池澤夏樹さんが星野道夫さんのことを書かれたとばかりに
  思えたからです。
  この本のどこにも星野道夫さんの名前は出てきませんから、
  それは私の思い過ごしなのでしょうが、
  44歳の若さであんなにも愛した熊に襲われ亡くなった星野道夫さんのことを
  思わずにはいられませんでした。
  私が星野道夫さんに出会ったのは、彼が亡くなってからのことですが、
  たまたま星野道夫さんの『クマよ』を朗読する機会が、
  より彼を身近に感じるきっかけになったのは事実そうです。
  この『熊になった少年』も、池澤夏樹さんは朗読をすすめています。
  できれば、星野道夫さんの物語とともに、
  この本がたくさんの人に読まれることを
  願わずにはいられません。
  最後になりましたが、坂川栄治さんの絵も
  素晴らしい、ということを書き添えておきます。

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熊になった少年 (SWITCH LIBRARY)熊になった少年 (SWITCH LIBRARY)
(2009/06/22)
池澤夏樹 絵:坂川栄治

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sai.wingpen  耳をすませて おまえの声をきく                 矢印 bk1書評ページへ

 「いつか おまえに 会いたかった」。写真家で文筆家でもあった星野道夫はこどものための絵本『クマよ』の冒頭のそう綴った。「おまえ」とは熊のことである。そして、こう続ける。「気がついたんだ おれたちに 同じ時間が 流れていることに」と。
 星野道夫の静謐で敬虔な文章の魅力は、いうなれば、この一連の文章に集約されているように思う。星野にとって、熊とは異なる獣ではなく、家族や友人と同じ自分と地続きの生命体だった。
 またある時、ムースのスープを飲みながら、星野道夫をこう感じる。「極北の森に生きたムースの体は、ゆっくりと僕の中にしみ込んでゆく。その時、僕はムースになる。そして、ムースは人になる」(「アラスカ風のような物語」)
 まさにそこに、星野道夫の豊穣な心のありようを感じる。
 その星野道夫があれほど愛した熊に襲われ亡くなった時、本作の著者である池澤夏樹は七歳年上の友人として、数多くの哀悼の文章を綴った。
 そのなかのひとつ、星野道夫著『旅をする木』の文庫本の解説文に、池澤夏樹はこう記している。「彼(星野道夫)の人生があの時点でクマとの遭遇によって終ったについては、たぶん自然の側に、霊的な世界の側に、なにか大きな理由があったのだ。たぶん彼自身、よく納得していることなのだ。あの時点での彼の死はどんな意味でも理不尽なものではなかったのだ」

 池澤夏樹が創作した民話のような物語『熊になった少年』は、熊を虐げ、その魂を慈しみもしないトゥムンチという部族の、イキリという少年の物語である。イキリはある事件をきっかけにして熊に変身してしまう。そして、自分たちの部族の浅ましさや醜さを知ることになるのだが、池澤夏樹の創作動機に若き友人星野道夫のことがあったかどうかはわからないが、なぜかイキリ少年の悲しげな姿が星野道夫とだぶってしまう。
 池澤夏樹がかつて星野道夫の死に「なにか大きな理由があった」と感じた、同じ理由が、イキリ少年を熊にもし、もう一度人間の姿にも戻したのではないだろうか。

 池澤夏樹はこの小さくはあるけれど、深い物語を何度もなんども朗読してきたという。
 使いこまれることで手になじんでくるものたちと同じように、この物語もそうやって育まれてきたし、これからは私たちが育んでいかなければならない物語である。
  
(2009/07/23 投稿)
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