プレゼント 書評こぼれ話

  今日は昨日のつづき。
  角田光代さんの新刊
  『坂の途中の家』を紹介するのですが
  まずは講演で話されていた
  角田光代さんの小学生の時の
  感動的なお話を。
  角田光代さんは小学一年の時に書いた作文を
  先生に褒められたそうです。
  そのことで書く喜びに目覚めた少女は
  それからというのも
  書くことに夢中になっていきます。
  先生もその都度褒めてくれたり
  感想を書いてくれたりしたそうです。
  ところが、三年生になって
  先生が変わってしまいます。
  それでも書き続けていた少女に
  その先生は「いつまでそんなことばかり書いているのだ」と
  ひどい言葉を投げつけます。
  少女は書くことをやめてしまいます。
  生活も乱れていきます。
  そして、迎えた六年生の通知簿に
  一年生の時の先生がこう書いてくれたそうです。
  「どうして書かないのか」
  角田光代さんはハッと気づきます。
  きっとこの時の先生の言葉にずっと励まされてきたのにちがいない。
  自分が生きるためには
  書くことが必要だということを
  知ったのだと思います。
  なんだか泣きそうになるくらい
  いい話だと思いませんか。
  もし、その先生がいなければ
  作家角田光代さんは誕生しなかっただろうし、
  少女は生きる糧すら見つけられなかったかもしれない。
  子どもが持っている上質なものを
  見つけてあげることの大切さを
  このエピソードは語っているように思います。
  この話を聴けただけでも
  この講演には意味がありました。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  家庭という密室                   

 角田光代はまたひとつ金字塔を打ち立てた。
 きっと多くの女性読者の共感を呼ぶだろうこの長編小説に男性読者は震撼とするだろう。
 女性は怖い。いや、違う。怖いのは、絶対にわかりあえない個としての人。
 その点では女性であろうと男性であろうと変わりはしない。もしいえるとすれば、角田光代という作家が女性の方にいることだ。

 33歳の専業主婦里沙子。2歳年上の陽一郎は優しい。もうすぐ3歳になる文香のお風呂にもちゃんと手伝う。義父母とは適度に距離を置き、ママ友とのどうということのない会話も楽しむ。
 きっとどこにでもいるだろう、若い夫婦。
 里沙子のもとに裁判員制度の候補者になったという手紙が届いたところから、二人の間に少しずつ亀裂がはいっていく。
 里沙子が担当することになった裁判は30代の母親が浴槽で八カ月になる赤ん坊を殺めてしまった事件。
 被告の裁判を通じて、里沙子の心は少しずつ崩れていく。

 崩れていく、のではない。露わになっていくということだ。
 母乳の出なかった自分は何気ない義母の言葉に傷ついたことがあった。被告と同じではないか。陽一郎の優しい言葉に棘が隠されていたことにも気づく。被告が夫の言葉に恐怖を感じていたように。そして、里沙子も泣き止まぬ文香を床に落としたことがある。被告がその子を浴槽に落としたように。
 被告席に座っているのは、事件の被告ではなく、里沙子本人であるかのように思えてくる。裁判席に座っているのは、読者である私たち。

 私たちは里沙子を裁けるのか。
 陽一郎に罪はないのか。幼子をお風呂にいれることで育児に協力しているなんて言わないで欲しい。
 義父母に罪はないのか。あなたたちが心配なのは自分の生んだ息子だけではないか。
 里沙子に罪はないのか。一体あなたは何におびえているというのだ。夫か。義父母か。それとも小さな娘なのか。

 公判中、里沙子がずっと気になっていたことは、食い違う被告と夫や義母の証言の本当のことがわからないことだ。何故なら、家とは密室だから。
 この事件にどんな結審がなされるのか、それは物語の最後に明かされる。
  
(2016/02/10 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
Secret

TrackBackURL
→http://hontasu.blog49.fc2.com/tb.php/2731-ad4c60c6