プレゼント 書評こぼれ話

  俳句の季語に
  うまいなと感じ入るものが
  いくつかあって
  その中のひとつに「猫の恋」というものが
  あります。
  春の季語です。
  夜となく昼となく、
  恋の狂態を演じる猫のせつない鳴き声を
  耳にした人もいるでしょう。

     おそろしや石垣崩す猫の恋     正岡 子規

  さしずめ、官能小説を読みたくなるのも
  「猫の恋」状態でしょうか。
  今日紹介するのは
  おなじみ花房観音さんの
  『好色入道』。
  好色に、入道。
  なんだかあまりにもそれで
  読む方も気恥ずかしくなるタイトルですね。
  ですが、今回の作品は
  あまり官能度は高くありません。
  猫の恋ほどには。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  団鬼六と花房観音                   

 花房観音の新しい長編小説には、献辞がついている。
 曰く、「団鬼六に捧ぐ」。
 団鬼六について少し説明を書く。団は2011年5月に亡くなった日本のSM小説の第一人者であった小説家である。
 代表作の『花と蛇』が評判となり、その後SM雑誌の出版や映画にまで進出したが、もちろん団に経営の才覚があるはずもなく、晩年は官能小説の新時代を築くような作品を大手の出版社から続々と出して生涯を終えることになる。
 自身の名前を冠にした「団鬼六賞」を2010年に創設し、自身も審査員を務めた第一回の大賞受賞作が、花房観音の『花祀り』なのだ。
 それから、6年、花房観音は女性でありながら確実に官能作家としてのキャリアを重ねてきて、この作品に至る。

 この作品の大きなテーマが「閑吟集」の「何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ」という団鬼六が生涯愛した歌でもあり、花房自身がこの作品にかける決意のようなものが献辞につながったのであろう。
 この物語に登場する奇僧秀健は受賞作『花祀り』にも登場することを思えば、花房にはデビューからこれまでの一つの区切りのような思いでもあったのかもしれない。

 物語は京都市長選が舞台になっている。「京都の闇」を一掃するという各務原(かがみはら)とそれを阻止すべき暗躍する秀健たちを描いている。
 もちろん花房の作品であるから、各務原を慕う美貌の元女子アナ東院純子が登場し、さっそく秀健たちの策略で彼の欲望の餌食となって、官能小説としても楽しめるのだが、その後はさっぱり情愛描写もほとんどない。
 せっかく団鬼六に捧げた作品ならば、そのまま官能小説として貫き通せばよかったものの、秀健が奇怪な声で叫ぶような淫らなさまを、花房は残念ながら十分に描けていない。

 純子が一度の色地獄で秀健に恋してしまうと設定にはやはり無理があるような気がする。
 登場する女性の中では各務原の対抗馬として秀健たちが立候補させた澄田の妻亜矢子の方が不思議な魅力をまとっていた。
残念ながらこの亜矢子にも花房は情愛場面を用意しない。

 この作品にもし花房のひとつの区切りのような思いがあるとしたら、花房もまた秀健のように何処へ歩き出すのだろう。
  
(2016/03/30 投稿)

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