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プレゼント 書評こぼれ話

  漫画の書評ってあるかといえば、
  もちろん、これはやっぱりあります。
  今日は2003年の蔵出しですが、
  手塚治虫さんの『Black Jack(ブラック・ジャック)』の書評です。
  書評というのは、
  別に文字で書かれた散文だけでなく、
  絵本だって書けますし、詩文でも書けます。
  そして、漫画も。
  読んだものが心にどう響いたか、
  それを誰かに伝えたい、あるいは自分の中で残しておきたいと思えば、
  表現手段として、それは可能だと思います。
  だから、本当は「漫画ばかり見て」というのは正しくはありません。
  漫画を読んで、何を思ったのかということを引き出してあげれば
  いいのではないでしょうか。
  ちなみに、今週の「bk1書店」の<書評フェア>は、
  「書評を通じて、天才・手塚治虫の全貌に迫る」という企画です。
  一度、のぞいてみてはいかが。

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Black Jack―The best 11 stories by Osamu Tezuka (17) (秋田文庫)Black Jack―The best 11 stories by Osamu Tezuka (17) (秋田文庫)
(2003/08)
手塚 治虫

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sai.wingpen  ピノコ賛歌                矢印 bk1書評ページへ

 手塚漫画の魅力を、この巻の解説者である里中満智子さんは「社会性」「ストーリー性」「あぶないお色気」「暗さ」「重さ」「キャラクターの多彩さ」と分析している。
 里中さんは、一ページあたりのストーリー展開のスピードに言及して、それが手塚治虫の本来のリズムだと感嘆する。自身が漫画家であるだけに、手塚の文体の魅力がよく見えているのだろう。
 里中さんはそんな職業的な専門的解説の中で、さりげなくこんな一文を書いている。「ピノコのあぶないお色気も、手塚作品の底に流れる主旋律の一本だ」(259頁)そのさりげなさの中に、里中さんのピノコに対する愛情のようなものを感じる。
 この秋田文庫版第17巻は「ブラック・ジャック」生誕30周年を記念して、3年ぶりに発売されたものだ。その第一話が「ピノコ再び」という作品である。
 あえて記念すべき巻の巻頭にピノコの挿話を持ってきたともいえるほど、ピノコは漫画「ブラック・ジャック」において重要で、人気の高いキャラクターだといえる。里中さん同様、ピノコファンは多い。

 ピノコはブラック・ジャックが創造した人造人間である。
 ピノコは「畸形嚢腫」(秋田文庫版では第1巻収録)という物語で初めて登場した。ある身分の高い女性の腫瘍から彼女は誕生する。ピノコはそのことを知らないし、腫瘍を切断した女性はピノコの姿を見て「いやらしい子」と吐き捨てる。
 漫画「ブラック・ジャック」という作品は、そのようにして生まれ、姿かたちは幼児のまま、言葉も舌たらずの発音だが、思考はりっぱな女性であるピノコの、ブラック・ジャックに寄せる一途な愛の物語ともいえる。
 「ピノコ再び」ではピノコを里子に出そうと決心したブラック・ジャックが自身の病気を通じてピノコの存在を肯定する物語だが、捨て子同然のピノコにとってブラック・ジャックと暮らせる生活は憧れだったにちがいない。
 挿話の最後の場面で、ブラック・ジャックから同居を認められたピノコの表情の美しさはどうだろう。この時初めてピノコは、手塚漫画の個性豊かなキャラクターとして誕生したといえる。

 この巻にはその他「畸形嚢腫」の続編ともいえる「おとずれた思い出」や台風の中一人ブラック・ジャックの棲家を守るピノコを描いた「台風一過」も収められている。ピノコの魅力が思う存分味わえる、貴重な一冊である。
  
(2003/09/09 投稿)

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