05/17/2016 剃刀日記(石川 桂郎):書評「一読をすすめたい一冊」

私のこのブログでは
時々俳句を紹介していることは
お気づきだと思います。
今日紹介する『剃刀日記』の著者
石川桂郎は俳人で
このブログでも
いくつかの句を紹介しています。
調べると
こんな句がありました。
黒々とひとは雨具を桜桃忌 石川桂郎
なるほど、石川桂郎の作品が
太宰治に近いのは
石川桂郎自身が太宰治のファンだったんでしょうね。
多分この作品集自体が
あまり知られていないでしょうが
予想以上によかった。
読んでみるものです。
じゃあ、読もう。

本との出合いはさまざまだ。
書店の店頭であったり図書館の棚であったり新聞の書評であったり友人に薦められたリ。
この本は川口則弘氏の『ワタクシ、直木賞のオタクです』という本の中に書かれていた。直木賞を受賞できなかった名作のくくりだった。
まったく知らなかった。
そもそも石川桂郎なんていう作家のことを知っている人も少ないのではないか。
石川桂郎は石田波郷に師事した俳人である。
「三寒の四温を待てる机かな」とか「裏がへる亀思ふべし鳴けるなり」といった句がある。
歳時記を読んでいると時々その名前を目にする。
石川は1909年8月生まれ。
東京三田の理髪店の息子で、自身その店を継ぐことになる。
この『剃刀日記』はその理髪店での時代とのちに廃業した思いなどをエッセイ風に綴った短編集である。
直木賞の候補になったのは1955年の第32回の時。『妻の温泉』という作品だった。
候補にあがったもののほとんどの選考委員が賛成しなかったそうだ。ちなみにこの時の受賞は戸川幸夫と梅崎春生である。
残念ながら、候補となったこの作品はこの本には収録されていない。
ところが、石川のこの作品集は実に数奇というか何かの拍子に陽の目を見るようで、これまでにも度々文庫本になったりしている。
石川は1975年11月に亡くなっている。
この作品集の「序」を横光利一が記している。
横光は石川の作品を「汚れを知らぬ簡素な心の放つ匂い」と称賛している。
この作品集では「蝶」とか「炭」「指輪」といったところが有名らしい。私は「花輪」という作品がよかった。
いやどの作品がどうこうというより、読み進むうちにはまりこんでしまったという方が正しい。
どちらかといえば清貧の生活を描きつつ、それでもどっこい生きている市井の息づかいが感じられる。
この本の解説を書いた七北数人氏は太宰治に通じるものを指摘しているが、なるほどと納得した。太宰というより昭和前半の時代のような気もする。
ここには現代風な派手さもないが、強い生命力を感じる。
一読をすすめたい。
(2016/05/17 投稿)

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