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プレゼント 書評こぼれ話

  今日、8月6日は広島に原子爆弾が落とされた日。
  そのあと、9日には長崎にも。
  いろいろな主義、主張があるでしょうが、
  やはりああいう悲惨なことは二度とあってはいけないと思います。
  そして、そういうことは、
  きちんと次の世代に伝えていくことが必要です。
  今日紹介したこうの史代さんの『夕凪の街 桜の国』は漫画です。
  漫画ですが、心が震える作品です。
  映画にもなりました。(原作の方がずっといいです)
  若い人たちが、そのようにして、きちんと平和を描くことが大事だし、
  そういう本があることもやはり伝えていくべきだと思います。
  この本は今は文庫(双葉文庫)にもなって、
  手にはいりやすいですから、読んでみて下さい。
  今日の書評は2005年の蔵出しですが、
  これをきっかけにして、みなさんのなかの、
  ヒロシマ、ナガサキを考える、きっかけになれば
  いいと思います。

    折り鶴に込めし鎮魂原爆忌  (本田幸吉

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夕凪の街桜の国夕凪の街桜の国
(2004/10)
こうの 史代

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sai.wingpen  ヒロシマから伝える/マンガで伝える              矢印 bk1書評ページへ

 大江健三郎が『夏の花』の作家原民喜を紹介する短文の中で、原が文体について書いたこのような文章を紹介している。(「原民喜と若い人々との橋のために」1973年)
 《明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体…私はこんな文体に憧れている。だが結局、文体はそれをつくりだす心の反映でしかないのだろう》
 原はヒロシマで原爆に被災し、その中で彼でしか描けなかった小説を書いてきた作家である。
 大江はこの短文で原のことを「若い読者がめぐりあうべき、現代日本文学の、もっとも美しい散文家のひとり」と書いた。
 その時から三十年以上経って、私たちは「若い読者がめぐりあうべき、現代日本マンガの、もっとも美しい」作品を持つことになった。
 こうの史代のこの作品は漫画である。漫画でありながら、これほどに深く強く理不尽にも原爆に被爆したヒロシマを描き、漫画だからこそ、若い人にもわかりやすく被爆した人たちとそれに続く多くの人たちの悔しさや悲しみを表現しえた。
 先の原民喜の文章は散文を書いた作家のものではあるが、漫画家であるこうのにとって、《文体》とはネームと呼ばれる漫画の基本形にあたるのだろう。キャラクターの設定、コマ割りの作りこみ、せりふの軽重。それら漫画を描く上の基本形が、こうのの場合、原が文体について書いた文章にそっくりそのままあてはまる。
 原の文章の《文体》をあえて《マンガ》と言い換えてみた。《明るく静かに澄んで懐かしいマンガ、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えているマンガ、夢のように美しいが現実のようにたしかなマンガ…》

 わずか三五頁の短編である『夕凪の街』の終わり近く、主人公皆美が「夜おそくまっくろな血を吐いた」場面から続く三頁のコマ割りとせりふはおそらくこれまで漫画が描いてきた作品の中でももっとも切なく涙をさそう数頁だろう。
 こうのは「あとがき」で「このオチのない物語は、三五頁で貴方の心に湧いたものによって、はじめて完結するもの」と書いているが、このマンガには完結などない。
 まさにここには私たち人間が決して忘れてはいけない悲しみと絶望と、いつまでもずっと伝え続けなければいけないヒロシマがある。
  
(2005/06/19 投稿)
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