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プレゼント 書評こぼれ話

  本には、特に文庫本や新書には、
  よく見ると、いろいろなシンボルマークがついていて、
  漱石の染みその由来であるとか意味するものであるのかを調べてみるのも
  それはそれで、面白いテーマかもしれません。
  今日紹介した長田弘さんの『読書からはじまる』は、
  「NHKライブラリー」というシリーズ出版からの一冊ですが、
  このシンボルマークは、何だと思います?
  写真で大きくしておきましたが、
  実はこれ、
  夏目漱石の『道草』の草稿に落ちたインクの染み
  なんだそうです。
  それだけで、うれしくなってしまいました。
  そういうものをシンボルにしている本だから、
  思わず頬すりすりしたくなります。
  それに、たくさんの本のお話を書かれている
  詩人長田弘さんの本でもあって、
  二重の喜びです。
  本好きな人ならこういう気持ち、わかってもらえると思いますが、
  村上春樹さん風にいうなら、「小確幸」。
  小さいけれど、確かな、幸せ

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読書からはじまる (NHKライブラリー)読書からはじまる (NHKライブラリー)
(2006/10)
長田 弘

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sai.wingpen  風が頬をわたるような時間              矢印 bk1書評ページへ

 この本は、詩人長田弘さんの、いくつかの講演草稿をもとにして書き下ろされた、読書についての論考集です。
 この本の最後で長田さんは「自分の心のなかに失いたくない言葉の蓄え場所をつくりだすのが、読書です」(214頁)と書いています。そういう豊かな言葉がさししめすとおり、この本のなかには読書だけでなく、言葉の問題、生活のなかにある時間や場所、私たちの記憶のことどもが、八篇の論考として収められています。
 特に心をひかれたのは、子どもの本に関しての、「子どもの本のちから」と題された一篇でした。
 そのなかで、長田さんは、子どもの本がどんな本とも違うのは「子どもたちの本であって同時に大人たちの本でもある」ということだとしています。
 図書館などに行くと、子どもの本というエリアがあって、なんとなく独立した場所として仕切られている風景を見かけます。あるいは、子どもの本の多くは、この本はどれくらいの年頃の子どもを対象にしていると書かれています。
 このように、子どもの本自体が大人を拒んでいる節もないではないですが、大人にしても子どもの本など今更読めるか程度のことは思っています。
 しかし、私たちが子どもだった頃の本だけが現代の子どもたちに読まれているわけではありません。むしろ、多くの作品が私たちが大人になってから生まれてきました。「大人になってからは子どもの本を読まないというのだったら、その本に親しむことのないままになる」(91頁)と、長田さんは書いています。それでは読書がもたらす幸福というのは、限られたものになってしまいます。

 子どもの本だから幼いことがらが書かれているはずもありません。
 「大人になるとともに自分たちがいつか失った疑いや希望といったものがそこに見いだされるような、あるいは確かめられるような」(94頁)ものとして、子どもの本に接するのも素敵な読書生活ではないでしょうか。
 図書館に行くと、子どもに本をすすめるお母さんの姿をよく見かけます。できれば、お母さんも一冊子どもの本を読んでみてはいかがですか。「ハイジ」に夢見ていたあの頃の、風が頬をわたるような時間こそ、読書がもたらす至福の時間ではないでしょうか。
 長田弘さんのこの本は、そんなことを考えさせてくれる、味わいのある一冊です。
  
(2009/08/07 投稿)
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