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08/09/2009    原爆詩集 八月:書評

プレゼント 書評こぼれ話

  今日、8月9日は長崎原爆忌
  日曜恒例の「丸かじり」シリーズはお休みいただいて、
  今日は『原爆詩集 八月』という本を紹介します。
  2008年の蔵出しです。
  この本は詩集ですが、前回紹介した『夕凪の街 桜の国』が漫画だったように、
  この国の多くの文芸は原爆を悲惨さを実に多く
  描いてきました。
  世界で唯一の被爆国として、
  そのことは大切にしなければならないと思います。
  もちろん、その一方で戦争当事者の国であったことも
  忘れてはいけないのですが。
  あの時から64年が過ぎ、
  その時のことを語れる人も少なくなっています。
  しかし、私たちには「想像力」という力があります。
  犠牲になった人たちの悲しみや怒り、嘆きを「想像する」ことは、
  二度とこういう悲惨なことを起こさない抑止になるはずです。
  本を読む、ということは、
  そういう力を養うことでもあります。
  私は、そういう力を信じたいと思います。

  ※「丸かじり」は明日掲載します。
   さて、どんな丸かじりになるやら。

  
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原爆詩集 八月原爆詩集 八月
(2008/07)
合同出版編集部

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sai.wingpen  あまいあめ玉をしゃぶれるように                矢印 bk1書評ページへ

 時間はいつもたった一度きりです。
 それでも、時間は過ぎ去ったものを慈しみ、来るべき明日を夢みるようにできあがっています。それは、誰の人生にも同じように与えられているはずです。
 1945年8月も同じでした。
 でも、あの日、8月6日のヒロシマでは多くの人が過去も未来も、そして生きている現在(いま)も一瞬にしてなくしてしまわれました。
 彼らはもう父の名も母の名も呼ぶことはなく、夫の声も妻の声も我が子の声も聞くことはありませんでした。彼らはもう詩をよむこともありませんでした。
 そのことを誰が望んだでしょう。望みもしないことをされたというのに、彼らにはそのことさえ口にすることはできませんでした。
 「原爆の犠牲者数。広島十四万人。長崎七万人。広島型、長崎型原子爆弾の爆発点では、瞬間的に温度はセ氏数百万度、気圧は数十万気圧に上昇するといわれ、爆心地から半径五〇〇メートル以内は、人も動物も建物も、一瞬のうちに、完全に、消滅した。」(本文より)

 本書に掲載された多くの詩は、こどもたちのそれであれ詩人たちのそれであれ、少なくともあの瞬間を生きた人の声です。
 しかし、これらの詩を書いた人たちも原爆症や国の無理解に苦しんで、自ら死を選択した詩人もいましたし、病で倒れた人もいましたし、老齢になってやがて死んでいった人もいます。そこには63年という、あの時亡くなった人たちには夢のようにまばゆい、長い時間が横たわっています。
 戦争を知らない(日本という国に限定してですが)人たちが大勢を占め、原爆の記憶という言葉でさえ風化しそうな時代にあって、私たちは何をすればいいのだろう。この本はそのことを強く問いかけてきます。

 想像してください。
 今私たちにできることは、想像することしかないように思います。
 「タンスに残っている/ガラスの破片も/おばあさんのかたみのように/悲しく光っている。」(23頁・「おばあさん」抜粋)の言葉の破片を拾い集めてください。
 「・・・誰がこんなにしたんだろう・・・/母はそう云って死んだ/僕にもいつかわかるだろう」(65頁・「震える花」抜粋)悲しみの深みをのぞきこんでください。
 想像は未来のためだけにあるのではありません。
 悲しみや怒りの色はどんな色ですか。どんな姿をしていますか。ヒロシマとナガサキの悲しみを次に世代に引き継ぐためにも想像する力が必要だと思います。

 「死んだ女の子」という詩を書いたヒクメックはトルコの詩人ですが、彼がどうしてヒロシマの女の子の詩が書けたのでしょう。それは彼に深い想像力があったからではないでしょうか。
 あの時ヒロシマにいなかったことは仕合せなことです。原爆症に苦しまなかったのは仕合せなことです。しかし、あの時のヒロシマの、ナガサキの人たちの悲しみを想像できないことは不幸なことです。 ヒクメットの「死んだ女の子」の詩はこのようにして終わります。「炎が子どもを焼かないように/あまいあめ玉をしゃぶれるように」と。
 あなたにはあまいあめ玉がしゃぶれなくて目にいっぱい涙をためた女の子の姿を想像できますか。
  
(2008/09/06 投稿)

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