08/12/2009 クライマーズ・ハイ:書評

今日、8月12日は、「日航ジャンボ機墜落事故」という、
乗員乗客524名のうち520名の方が亡くなられた大惨事が起こってから、
24年めの夏になります。
1985年8月12日の夕刻、
お盆の帰省や夏休みを過ごした東京から大阪へ向かうジャンボ機が墜落した、
いつまでも記憶に残る、痛ましい事故です。
この事故があった時、私は大阪に住んでいました。
犠牲者の方のなかには近辺に住んでいた人もおられたように記憶しています。
あるいは有名な歌手の方や経済人も犠牲になられたということもあって、
あの事故の衝撃を忘れることができません。
記憶すること。忘れないこと。
夏とともにめぐる悲しみと鎮魂のなか、
二度とああいう痛ましいことが起こらないことを願います。
今日は、この事故をもとに、新聞記者たちが翻弄する姿を描いた、
横山秀夫さんの傑作『クライマーズ・ハイ』を紹介します。
単行本が出版された当時(2003年)に書いた書評の蔵出しです。
この作品は昨年の夏映画化もされました。
映画も観ましたが、
やはり原作の圧倒的な力には及ばなかったように感じました。
それほど読了後の印象が強い作品です。
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![]() | クライマーズ・ハイ (文春文庫) (2006/06) 横山 秀夫 商品詳細を見る |


今回の本は今年(2003年)の出版界の話題の一冊、横山秀夫氏の「クライマーズ・ハイ」。阪神タイガースが十八年ぶりのリーグ優勝で話題を呼んだ今年(2003年)のプロ野球だが、阪神が十八年前に優勝した85年の夏に起こった日航ジャンボ機の墜落を題材にしたこの本は、多くの人の心に残る感動の作品である。
今年(2003年)の読書週間の標語は「ありますか? 好きだといえる一冊が…」だったが、本を読まない人にとってこの呼びかけは何の意味もない。
不読者(一ヶ月に一冊も本を読まない人)は本を読まない理由として面白い作品がないとか他のメディアの方が面白いとか云うだろうが、この本はそういった不読者の人をも夢中にするにちがいない。日航ジャンボ機が墜落した日を境にして生きる葛藤に沸騰していく新聞記者たちの姿は、読む者の心を熱くしてくれる。
漱石を読むのもいいだろう。ドストエフスキーも読むのもいい。しかし、最初に横山のこの作品に出会った読者の、なんと幸運なことか。きっと読書の醍醐味にのめり込むのではないだろうか。
この本の書名となった「クライマーズ・ハイ」は登山用語だ。物語の記述に沿っていうと「脇目もふらず、もうガンガン登っちゃうんだ。アドレナリン出しまくりながら狂ったみたいに高度を稼いでいく」心理状態である。
実はそういった心理状態は、本を読んでいてもある。先を読みたくて頁を閉じれない。時間がどれほど過ぎようが関係ない。脇目も振らずにただひたすら物語の世界に入り込んでしまう。読書の方法としてそういった心理状態も必要かもしれない。
しかし、そういった心のあり方だけでは読書は続かないように思う。
逸る気持ちをいかに抑えて、作者が描こうとした本当の理由を読み解くことが読者に真の読書欲をかりたてていくような気がする。この作品のように、あまりに面白すぎる場合に気をつけないといけない心理である。
書き手にも同じような心理がある。
ついいわずもがなの表現をしたり、あまりにもきどった表現をしてしまう。この作品のように良質の作品であっても作者の筆が横滑りする、月並みな表現箇所が何箇所か散見できる。
それほどまでに読書における「クライマーズ・ハイ」症候群は恐ろしいといえる。
本を読むということは、登山用語でいう「アンザイレン-互いにザイルを結び合う。パートナーの心を一つにして、いざ登攀となる」に近い行為でなければならない。
読書もまた、作者と読者の心がひとつになって目の前にひろがる広大な世界を読み進めていく、豊穣な行為なのだ。
(2003/11/16 投稿)
不読者(一ヶ月に一冊も本を読まない人)は本を読まない理由として面白い作品がないとか他のメディアの方が面白いとか云うだろうが、この本はそういった不読者の人をも夢中にするにちがいない。日航ジャンボ機が墜落した日を境にして生きる葛藤に沸騰していく新聞記者たちの姿は、読む者の心を熱くしてくれる。
漱石を読むのもいいだろう。ドストエフスキーも読むのもいい。しかし、最初に横山のこの作品に出会った読者の、なんと幸運なことか。きっと読書の醍醐味にのめり込むのではないだろうか。
この本の書名となった「クライマーズ・ハイ」は登山用語だ。物語の記述に沿っていうと「脇目もふらず、もうガンガン登っちゃうんだ。アドレナリン出しまくりながら狂ったみたいに高度を稼いでいく」心理状態である。
実はそういった心理状態は、本を読んでいてもある。先を読みたくて頁を閉じれない。時間がどれほど過ぎようが関係ない。脇目も振らずにただひたすら物語の世界に入り込んでしまう。読書の方法としてそういった心理状態も必要かもしれない。
しかし、そういった心のあり方だけでは読書は続かないように思う。
逸る気持ちをいかに抑えて、作者が描こうとした本当の理由を読み解くことが読者に真の読書欲をかりたてていくような気がする。この作品のように、あまりに面白すぎる場合に気をつけないといけない心理である。
書き手にも同じような心理がある。
ついいわずもがなの表現をしたり、あまりにもきどった表現をしてしまう。この作品のように良質の作品であっても作者の筆が横滑りする、月並みな表現箇所が何箇所か散見できる。
それほどまでに読書における「クライマーズ・ハイ」症候群は恐ろしいといえる。
本を読むということは、登山用語でいう「アンザイレン-互いにザイルを結び合う。パートナーの心を一つにして、いざ登攀となる」に近い行為でなければならない。
読書もまた、作者と読者の心がひとつになって目の前にひろがる広大な世界を読み進めていく、豊穣な行為なのだ。
(2003/11/16 投稿)
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