プレゼント 書評こぼれ話

  総合誌「文藝春秋」に
  外交官の経験を持つ作家の佐藤優さんが
  「ベストセラーで読む日本の近現代史」という連載を
  行っている。
  実はその多くは未読であったり
  読んでいても随分以前に読んだものだったりで
  いつもこの機会に読もうと思ってはいるのだが
  なかなか実行に移せない。
  最新刊の新年号では
  新田次郎さんの『八甲田山 死の彷徨』が
  取り上げられていて
  この作品も読みそびれた一冊でもあったので
  やっと読むことができた。
  佐藤優さんは連載の中で

    組織の非情さを見事に描いた作品だ。

  だと書いています。

    国家に仕える軍人や官僚の思考を知るという点でも
    本書は有益だ。

  読まれていない人はぜひ。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  記録文学の傑作                   

 『強力伝』で第34回直木賞を受賞した新田次郎氏の作品の中でも最も人気の高いもののひとつが、本作品だろう。
 新田氏は1980年2月に67歳で亡くなっているから、すでにその人なりを記憶している人も少なくなっているかもしれない。(ちなみに、奥さんの藤原ていさんは2016年11月98歳で長寿を全うされた)
 新田氏は気象庁に勤務し、富士山気象にも関わったことがある特異な作家である。
 明治35年に起こった雪中行軍の遭難事故は200名近い死者が出た歴史上有名な事故だが、今日までそれが記憶として残っているのは、新田氏のこの作品のおかげともいえる。

 青森5聯隊と弘前31聯隊はある日の「冬の八甲田山を歩いて見たいと思わないかな」という旅団長のちょっとした言葉から厳冬の八甲田山縦断に挑むことになる。
 この作品では多くの死者を出した青森5聯隊と一人の死者も出さずに縦断に成功した弘前31聯隊の行動過程を描くことで、組織がどのようにして失敗していくかを描いている。
 新田氏の文体はほとんど業務連絡のように事由だけを積み重ねていく。さらに氏の得意とする気象知識がそれを補足し、人をして「記録文学」とまで呼ばせることになる。

 もちろん新田氏はそういう表現方法をとることでまるで読者をもまた厳冬の八甲田山に迷い込ませたといえる。
 その一方で弘前31聯隊を案内して最後には過酷に放り出される農民たちの姿を描くことで地に生きる者たちへの優しい視線も忘れてはいない。

 「山というものは優しい姿をした山ほど恐ろしい」。
 山を愛した作家新田次郎氏ならではの言葉である。
  
(2016/12/29 投稿)

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