プレゼント 書評こぼれ話

  正月からいい小説を読むと
  気分がいい。
  黒井千次さんの『高く手を振る日』は
  2010年3月の初版だから
  少し前に出た作品。
  刊行当時話題になったと思うが
  この本も読みそびれた本の一冊に
  なってしまっていました。
  それを
  昨年読んだ川本三郎さんの『物語の向こうに時代が見える』を読んで
  あ、今度はぜひ読みたいと思いました。
  年を重ねるという美しさに
  触れたような作品です。
  こんなふうに
  歳月をかさねられたら
  どんなにいいでしょう。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  心に残るくちづけ                   

 くちづけ、という甘い言葉を久しぶりに味わった、そんな気分にさせてくれた小説だ。
 但し、くちづけをするのは70半ばに近づいた男女で、この二人はかつて大学時代に同じゼミ生の時代があり、ともに人生の途中で互いに伴侶を亡くして、今は老いを実感としている二人である。
 結婚前、それは学生時代であるが、二人は一度だけ掠めるようなくちづけを交わしたことがある。
 それから半世紀を経て、二人はもう一度、「古い時間の味」がするくちづけをする。
 もし、何かの違いがあるとすれば、学生時代は無言であったが、年を経て、二人は言葉を交わすことができる。何度も口唇を触れ合わすことができる。

 二人の二度めのくちづけはしかし、重子という女が浩平という男に「老人ホーム」に入所を告げに初めて浩平の家を訪ねた折である。
 学生時代には「振り返るところまでの」先の時間はたくさんあって、だから二人はこうして再会できて、携帯電話で話をし、メールの短文に心を寄せ合えるまでになったのだが、今回は「振り返るところまでの」時間はない。

 だから、余計にラストの、駅で別れる際に重子の言う「私に見えるように、大きく振ってね」はあまりに切ない。
 こんなふうにして人生を終わらせればどんなに仕合せだろう。
 けれど、そんなことはほとんどない。
 実際には「その先はもうない」「行き止りを前にして」うろうろするばかりだろう。
 だから、この物語は、おとなのファンタジーなのだ。
 ひたすら胸をうつ。
  
(2017/01/04 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
Secret

TrackBackURL
→http://hontasu.blog49.fc2.com/tb.php/3070-b0ac4aa8