03/15/2017 雪の記憶(富島 健夫):書評「本の記憶」

先に荒川佳洋さんの
『「ジュニア」と「官能」の巨匠 富島健夫伝』を読んで
だったらせっかくなので
うんと以前に心をときめかした
富島健夫の『雪の記憶』を
読んでみようと思いました。
ところが、この作品を読むのは
今ではなかなか難しく、
さいたま市の図書館にも所蔵されていませんでした。
仕方がないので
さいたま市が市外の図書館と貸し出しの契約を結んでいるところから
借りることにしました。
この作品のように
昔の作品を読むのには
やはり図書館はとても役に立ちます。
おかげで
高校生の私に戻れました。
一時ですが。
じゃあ、読もう。

ジュニア小説の第一人者であった富島健夫の、幾多の人気作品の中でも世評の高いこの作品をいつ、私は読んだのだろう。
今回読んだ徳間文庫版の奧付には2003年9月初刷とある。さらに、1987年8月に勁文社より刊行と記されている。
但し、富島がこの作品を書いたのはずっと以前で、その初版は昭和33年らしい。
さすがにその時に読んではいない。
では、いつか。
この作品は人気が高く、さまざまな出版社で文庫化されている。その角川文庫版が1971年に出ている。私が16歳の時だ。
角川文庫の記憶がかすかにあるから、おそらくこの版だろう。
主人公たちの年齢にも近い。胸ときめかせて読んだのは間違いない。
この作品を今読むとかなり時代的な翻訳が必要かもしれない。戦後間もない時期であるが、漱石が描いた明治の時代よりももっと翻訳が必要な感じがする。
まだ男女、特にこの作品の主人公たちのような高校生の男女が交際すること自体白い目で見られていた頃だ。
私が高校生の頃だって、学校帰りに喫茶店でお茶することは禁じられていたように思う。
海彦という男子が列車の通学中に雪子という女子高校生に出合うところから始まる。(正しくいえば彼らは制度上の高校生ではない。中学が5年制であった時代である)
淡いというより口づけもたどたどしい幼い恋である。しかも、雪子に思いを寄せる男子が他にもあって、一人は不良男子でその関係で海彦たちは色々な災難に合うことになる。
もう一人が勉学優秀ながら、暗い男子だ。海彦のような明るさはない。
そんな中で海彦は自分の性欲とも戦うのだから、青春とは忙しいものだ。
もうこんな時代に戻れるはずもないし、最初にこの作品を読んだ時の感情とも遠いところに来てしまったが、少なくともこういう作品も今の私を作り出したことは間違いない。
まさに「本の記憶」だ。
(2017/03/15 投稿)

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