08/02/2018 山本周五郎名品館1 おたふく(沢木 耕太郎 編):書評「短編なのに、この奥深さ」

今日は
沢木耕太郎さん編による
文春文庫オリジナルの
『山本周五郎名品館1 おたふく』を
紹介します。
この中に
「雨あがる」という作品がありますが
この短編は
あの黒澤明監督が映画化しようと構想していたもので
結局は
黒澤明監督の弟子であった小泉堯史監督によって
映画化されました。
その短編から一節。
他人を押除けず他人の席を奪わず、
貧しいけれど真実な方たちに混って、
機会さえあればみんなに喜こびや望みをお与えになさる、
このままの貴方もお立派ですわ。
こんな主人公の作品です。
じゃあ、読もう。

昨年(2017年)没後50年を迎えた山本周五郎だが、その人気は衰えない。
人気が衰えないということは、新しい読者が没後も次々を生まれているということだ。川端康成のようにノーベル文学賞を受賞した作家もいるが、山本周五郎の場合、たとえ無冠であっても(直木賞を受賞したが辞退)いつまでも愛される作家というのも稀有であろう。
その生涯、300篇近い短編小説を書いたという山本周五郎であるが、その中から一人の編者で文庫本にして全4冊の短編集がこの春から刊行されている。
編者が沢木耕太郎さんというのがなんといっても、いい。
沢木さんが山本周五郎さんのどんな短編を選び、どんな評価をするのか。
読者にとってこんな楽しみはない。
その1巻めとなるこの作品集では、掲載順に「あだこ」「晩秋」「おたふく」「菊千代抄」「その木戸を通って」「ちゃん」「松の花」「おさん」「雨あがる」といった9篇が収録されている。
しかも巻末には、文庫本解説としては少し長めの沢木耕太郎さんの「解説エッセイ」が載っていて、沢木さんの愛読者にとってもうれしい編集になっている。
沢木さんの解説は一つひとつの作品で書かれているから、解説としても丁寧だ。
この9篇の短編でいえば、『日本婦道記』の1篇である「松の花」がやはりいいが、藩の改革のために自らを殺して冷酷に生きた側用人と、彼に恨みを持つ娘の交流を描いた「晩秋」がよかった。
昨年亡くなった葉室麟さんが好きそうなそんな世界観であるが、ぐっと胸深くきた、短編であった。
(2018/08/02 投稿)

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