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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は
  二十四節気のひとつ、処暑
  この頃
  暑さが収まるという意味。

    水平にながれて海へ処暑の雲     柿沼 茂

  まさに「秋めく」感じです。
  今日紹介する短編小説は
  松本清張の「菊枕」です。
  松本清張はたくさんの長編小説も書いていますが
  短編小説にもいいものが多く、
  この「菊枕」も
  いいですね。
  長ければいいという訳ではない。
  そんな見本のような
  短編小説です。
  この短編はいろいろな文庫に収録されていますから
  さがしてみるのも
  いいですよ。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  短編ながら密度の高い作品                   

 文庫本にしてわずか28ページの短編ながら、57歳で亡くなった女性俳人ぬいの人生を見事に描き切った名作。
 松本清張が『或る「小倉日記」伝』で第28回芥川賞を受賞したのが1953年で、同じような系統の作品ではあるが、その年の「文藝春秋」に発表されて、その後は芥川受賞作とともに清張の数多い短編小説群の中において初期短編のひとつとして読まれている。

 そして、この作品は一種のモデル小説でもある。
 小説のなかで「ぬい」と呼ばれた主人公は、今なお人気の高い俳人杉田久女がモデルといわれている。
 また「ぬい」が心底尊敬し、やがて見放されることで狂気におちていくもととなった俳匠宮萩は高浜虚子が原型である。
 杉田久女といえば「花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ」という有名な句があるが、しがない高校教師の妻という立場に飽き足らず、俳壇にうって出ようとした自身の心の葛藤を詠んだこの俳句の方が、この短編には相応しいかもしれない。
 それが「足袋つぐやノラともならず教師妻」だ。

 おそらく久女の人生ほど明治から昭和初期にかけての女性の立場として逼塞していた時代において波乱の満ちたものはなかったであろう。
 そこから考えれば、長編として創作もできたであろうが、清張は一切の枝葉をそぎ落としてわずか30ページ足らずで彼女の人生を描き切った。
 その手腕にただただ敬服する。

 ちなみに「菊枕」は秋の季語で、杉田久女に「ちなみぬふ陶淵明の菊枕」という句がある。
  
(2018/08/23 投稿)

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