10/07/2021 水たまりで息をする(高瀬 隼子):書評「コロナ時代である現代文学のひとつ」

今日は
第165回芥川賞の候補作になった
高瀬隼子(じゅんこ)さんの
『水たまりで息をする』を
紹介します。
書評にも書きましたが
この作品も私は受賞作よりも読みやすく
今という時点を考えても
受賞作であってもよかったと思います。
候補作がいくつもあれば
やはり自分好みの作品は出てきます。
ただどうしても
受賞作にならないと
なかなか話題にならないのも事実。
候補作全部読むのは
やはり難しいですから。
じゃあ、読もう。

第165回芥川賞候補作。
残念ながら、受賞には至らなかったが、受賞作より面白く読めた。(それは同じくくどうれいんさんの『氷柱の声』もそうで、受賞作だけでなく候補作であっても読むことをおすすめする)
選考委員の選評を読むと、この作品の長さを嫌う委員が何人かいたが、もちろんエピソードで削れるものがあるが、読んでいてあまり長さを感じなかった。
委員の中で平野啓一郎さんがこの作品を「一人だけ強く推した」という。なので、選評の三分の一はこの作品の評で占められ、受賞しなかった作品ながら評価が高かったことがわかる。
また奥泉光委員も「単純な物語構成のなかに、主人公の思考や感情の動きがたしかな手触りとともに浮かび上がる好篇」と評していた。
「夫が風呂に入っていない。」
これが冒頭の書き出し。物語は突然風呂に入らなくなった夫とそんな夫を受け入れていく妻の物語である。
「不条理」という言葉をよく使う。道理に合わないというような意味だが、現在のコロナ禍も不条理の世界を生みだしたといっていい。
そんなコロナとともに生きる私たちは、この物語に書かれた夫婦と同じではないだろうか。
風呂に入らなくなり、会社も辞めざるをえなくなった夫。彼とともに自分の実家のある田舎に越していく妻。
それは「不条理」を抱え込んでいく現代人の姿といえる。
ラストは結構衝撃的だし、いろいろな読み方もできるだろう。
この作品はコロナを描くことなく、コロナ時代である現代文学のひとつの作品になっている。
(2021/10/07 投稿)

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