10/12/2021 心淋し川(西條 奈加):書評「これは女たちの物語でもある」

第164回直木賞を受賞した
西條奈加さんの
『心淋し川』を
作品を読むまでずっと
「こころさびしがわ」と読むのだとばかり
思っていました。
正しくは
「うらさびしがわ」。
広辞苑によれば
この「心」の「うら」には
「表に見えないものの意」とあります。
「心淋しい」は
「なんとなく淋しい」という意味だそうです。
ただ西條奈加さんのこの作品は
そういう意味だけでなく
生きる強さも感じます。
じゃあ、読もう。

第164回直木賞受賞作。(2020年)
6つの作品からなる連作短編集で、「際立った力量」(林真理子委員)、「圧倒的な安定感」(桐野夏生委員)など選考委員のほぼ全員高い評価を受けての受賞となった時代小説だ。
中でも角田光代委員の「悲しみと情けなさとが詰まった生のいとしさを、この作品は静かな筆致で描いている」という評は、短い文章ながらこの作品を言い得ている。
物語の舞台は江戸・千駄木町の一角にある心(うら)町。
そこを流れる小さな川が心(うら)川。その両脇に立ち腐れたように固まって四つ五つ建っている長屋の住人たちが物語の主人公である。
心川から流れ込んだ窪地には、雨水とともに塵芥が淀んでいて、そんなところに住み人たちだから、皆一様にさまざまな過去と今を抱えている。
そんな街に差配(世話人)としている茂十が、6つの短編の狂言回しのようにしているが、最後の「灰の男」ではその茂十の過去が明かされ、全体が大きな長編小説のようにして締まっている構成になっている。
6つの作品で選考委員たちの評価が高かったのは「閨仏」だ。
心町にある長屋に四人の器量の悪い女たちが住んでいる。彼女たちは六兵衛という男の妾でもあるのだが、中で一番年かさの「りき」という女が主人公。
ある日六兵衛が持ってきた張形で、りきは仏のようなものを彫ってみる。
そこから四人の女たちの運命が変わっていく。
この作品を桐野夏生委員は「すっとぼけた話も書けるのだから、作者はなかなか強か」と評している。
生きることに強かなのは、この物語の登場人物たちだろう。
(2021/10/12 投稿)

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