01/20/2022 皆のあらばしり(乗代 雄介):書評「騙すこと騙されること」

今日は二十四節気のひとつ、
大寒。
「歳時記」を開いてみると
こんな句を見つけました。
大寒の埃の如く人死ぬる 高浜 虚子
どんな場面の句なのか知りませんが
なんだかオミクロン株が爆発的に広がっている
まるで今の世みたい。
昨日は
第166回芥川賞直木賞が発表されました。
芥川賞が砂川文次さんの『ブラックボックス』、
直木賞は今村翔吾さんの『塞王の楯』と米澤穂信さんの『黒牢城』。
おめでとうございます。
今日は
受賞には至りませんでしたが
芥川賞候補作だった
乗代雄介さんの『皆のあらばしり』を
紹介します。
乗代雄介さん、次を期待しています。
じゃあ、読もう。

第166回芥川賞候補作。
人はどうして本を読むのだろうか。
何事かを学ぶためであったり、自身の知らない世界を楽しむためであったりだろう。
あるいは、純粋に娯楽として読むこともあるだろう。
それらを大きくまとめるなら、知的好奇心を満足させるためといっていいかもしれない。(知的ではないこともあったとしても)
『旅する練習』で三島由紀夫賞を受賞した乗代雄介さんの受賞後第一作となった本作は、まさに知的好奇心をテーマとした作品といっていい。
舞台は栃木県にある皆川城。(ここは実際に存在する)
歴史研究部に所属する高校生の「ぼく」は、そこで見知らぬ男と出会う。
大阪弁を話すこの男は、妙に訳知りで、何故かこの土地の歴史にも詳しい。
毒気を抜かれた「ぼく」は、男の言われるままに、江戸時代後期の豪商小津久足(この人物も実際に存在する)が書いたとされる『皆のあらばしり』という本を探索することになる。
物語は、この謎の本の存在をめぐっての、「ぼく」と男との奇妙な駆け引きで進んでいく。
果たしてこの本は「幻の書」なのか、あるいは「偽書」なのか。
もっといえば、ここで語られることは作者である乗代さんの作為なのか。
どこまではが真実で、どこまでが虚構(創作)なのかわからないまま、物語は終焉に近づく。
結局、多くのことがわからない。
「騙すということは、騙されていることに気付いていない人間の相手をするということ」は、終わりにある男の独白だが、読者もまた騙されたのだろうか。
(2022/01/20 投稿)

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