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 昭和49年(1974年)8月28日に神奈川県平塚で起こった事件を
 憶えている人も少なくなっただろう。
 のちに「ピアノ殺人事件」と呼ばれるようになった、
 隣人間での騒音に起因した殺人事件である。
 団地の上階に住む男が、
 階下のピアノの音や窓サッシの開閉時の音がうるさいと
 二人の幼い命とその家の主婦を殺めた事件だ。
 男は音に敏感な質だったようだし、
 近隣の人からも孤立していたようだ。
 男は裁判の結果、死刑を言い渡されるのだが、
 死をのぞむ男の意思で控訴されず、死刑が確定したが、
 まだその実行はなされていないという。

  

 上前淳一郎氏による『狂気 ピアノ殺人事件』では、
 その事件のあらまし、男の歩んできた半生、裁判の様子、
 男と同様に騒音に苦しむ支援者たちの運動など
 ノンフィクション作家上前氏の筆は冷静にたどっている。
 書かれたのは、事件から3年余り経った昭和53年(1978年)4月から6月にかけてで、
 雑誌連載のあと同じ年の夏に単行本化されている。
 上前氏はスポーツ、芸能、経済、事件など
 幅広い題材を描いてきたノンフィクション作家で、
 ちょうどこの作品を書いた頃は気鋭の新進作家だった。
 だから、殺人を犯した男だけを非難するのではなく、
 冷静に何故事件が起こってしまったのかを描いている。

 何故この作品を読もうと思ったかというと、
 最近これに類する隣人トラブルや音に起因する異議申し立てのような事柄が多く、
 それは周辺とのコミュニケーション不足がもたらす不幸のように
 感じたからだ。
 良質なノンフィクション作品は多くのヒントをもたらしてくれたはずなのに。
 隣人を選べない不幸は、令和の時代にあっても消えることはない。
 
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