03/28/2023 終りなき夜に生れつく(アガサ・クリスティー):書評「ここにはクリスティーのすべてがある」

アガサ・クリスティーのベスト本といえば、
おそらく『オリエント急行の殺人』とか『そして誰もいなくなった』を
あげる人が多いだろうが、
もしかした今日紹介する『終りなき夜に生れつく』をあげる人がいれば、
きっとその人はアガサのファンといえるのではないかしらん。
いつもお世話になっている
霜月蒼さんの『アガサ・クリスティー完全攻略』では
★★★★★の満点評価。
さらには、「是非ともすべてのひとに本作を読んでいただきたい」とまで
書かれている大傑作。
この作品読み方次第でいろんな表情に変わる作品で
ある意味、
大恋愛小説ともいえる。
ただアガサ作品のとっかかりとしてこの作品を薦めるかと訊かれたら、
うーむとなる作品でもあります。
じゃあ、読もう。

アガサ・クリスティーの作品世界は、大きく6つに分類される。
まずはなんといっても、エルキュール・ポアロの長編小説群、次にミス・マープル長編小説群、それとトミー&タペンス長編小説群、それから短編集と戯曲群、そしてノンシリーズ長編小説群である。
どうしても、ポアロとミス・マープルに目がいくし、それはそれでアガサの読書体験としては正しいが、できれば他のジャンルにまで手を伸ばせば、アガサの世界がさらに豊かになる。
この『終りなき夜に生れつく』はノンシリーズ長編小説のひとつ。
原題が「Endless Night」で1967年に刊行された作品。
ミステリだが、作品が醸し出す雰囲気は幻想的でもある。
ミステリ評論家の霜月蒼さんは、この作品を評して、「ここにはクリスティーのすべてがある」とまで絶賛している。
確かにとてもよく出来ている。
ポアロもミス・マープルも出てこないし、文庫本330ページほどの作品で殺人事件が起こるのは240ページを過ぎたあたり。
それまでは「ジプシーが丘」という曰くつきの土地に固執する青年(この物語は彼の一人称で描かれている)と美人で大富豪の女性との出会いや、彼女を取り巻く胡散臭い親戚の姿などが描かれていく。
殺されるのは、この大富豪の女性。
そこから犯人の正体まで一気に読ませてしまうのは、さすがアガサならでは。
事件が起こるまでが随分長いし、雰囲気が決して明るくないから、投げ出してしまう読者もいるかもしれないが、それはなんとも勿体ない。
もしかしたら、アガサ・クリスティーのベストかもしれない作品は、完読してこそ味わえる。
(2023/03/28 投稿)

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