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プレゼント 書評こぼれ話

  この本は、先に読んだ豊崎由美さんの『正直書評。』で、
  絶賛されていたものです。
  あの豊崎さんが、「鬼の目にも涙。落涙二段構えのする
  不思議な読後感をお試しあれ
」と書いたくらいですから、
  少しは覚悟をきめて、読んだ物語です。
  ただ、残念ながら? 私は泣けませんでした。
  もしかして、あの豊崎さんよりも鬼かもしれないと、
  そちらの方が泣けてしまいます。
  それはともかくとして、実はこの本、
  今年初めて読む文学、小説なんですよね。
  たくさん読んでいるようですが、
  案外小説が少ないかもしれませんね。
  それで感性が鈍っているのかなぁ、と
  少し反省しています。
  
リンさんの小さな子リンさんの小さな子
(2005/09)
フィリップ クローデル

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sai.wingpen  穏やかな朝                  矢印 bk1書評ページへ

  「戦後」という言葉は曖昧だ。
 私たち多くの日本人にとってのそれは「第二次世界大戦」だろうし(そうではない若い人たちも増えてはいるが)、アメリカやフランスの人たちにとっては「ベトナム戦争」かもしれない。あるいは「イラン戦争」だと言う人もいるだろう。
 この世界に「戦争」が絶えない限り、「戦後」という言葉は人それぞれの悲しみをもったまま、語り継がれていくしかない。
 この物語に国の特定はない。
 しかし、著者がフランスの作家であることや主人公の「リンさん」が思い出す村の光景から、それはおそらく「ベトナム」だろうと推測される。
 ただそれが「ベトナム」である必要はない。
 ここに描かれているのは、特定の国の悲惨な記憶というより、「戦争」というものがもたらす、共通の悲しみだ。

 戦争で息子夫婦を喪ったリンさんは、「穏やかな朝」という意味をもつサン・ディウという名の、小さい女の子と二人だけで、異国の地に収容されていく。
 「おまえがまだ小さい緑のマンゴーでいるかぎり、古いマンゴーの木が必要なんだよ」(35頁)と、リンさんはこの小さい女の子を片時も離さない。
 そんなリンさんが異国で唯一心を許すのが、奥さんを亡くしたばかりのバルクさんだった。
 二人は互いの言葉がわからないまま、心を通わせていく。
 「バルクさんのおかげで、この見知らぬ国にも、それなりの顔があり、歩き方があり、重みがあり、疲れがあり、ほほえみがあり、香りもあることが」(73頁)わかり始めるリンさんだったが、その友情もやがて切り裂かれていく。
 そして、物語は切ない結末に向かって動き始める。

 過激な描写はない。それでいて、リンさんの悲しみは強く読者の胸をうつ。
 言葉ではなく、互いの喪失感がもたらす心の響きでつながっていたリンさんとバルクさんに「穏やかな朝」がやってくることはあるのだろうか。
 静かにたたえた水のような文章が、柔らかに読者の心に満ちていく。
 世界中のそれぞれの「戦後」にいつか「穏やかな朝」が訪れることを願う、これは静かな物語である。
  
(2009/01/20 投稿)

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