06/24/2010 にいさん(いせ ひでこ):書評「星の歌をきいたゴッホ」

昨日記事を書いた「オルセー美術館展2010<ポスト印象派>」には
7点のゴッホの作品が展示されています。
そのなかでも「星降る夜」の素晴らしさといったら
どう表現すればいいのかな。
この作品を見るだけでも、
今回の展覧会は値打ちがあります。
そのほかにも、
「自画像」や「アルルのゴッホの寝室」など名作がずらり。
というわけで、
今日はゴッホつながりの一冊です。
いせひでこさんの絵本『にいさん』。
ゴッホと弟のテオの兄弟愛は有名ですが
この絵本はその物語が
いせひでこさんの素敵な絵ととも
描かれています。
先日記事にした落合恵子さんの『絵本処方箋』で
紹介されていて見つけました。
ゴッホの絵に秘められた
弟テオの愛情を
この絵本で感じられたら、
ゴッホの魅力も増すのではないでしょうか。
じゃあ、読もう。
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この『にいさん』は印象派の画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホとその弟である画商テオドルス・ヴァン・ゴッホ(通称テオ)の物語を絵本の形で表現した、美しい物語である。
作者のいせひでこは1990年からゴッホの足跡をたどりつづけて、すでに何冊かゴッホ関連の本を上梓している絵本作家である。
ゴッホほど日本人に愛された画家はいないかもしれない。その情熱的な筆づかい、過剰な色彩、波乱に富んだ一生、狂気と正気、貧しい人を慈しみ、自身名声や富とは生涯縁のなかった男。
そんな画家がどうしてこれほどの日本人に愛されるのであろうか。狂気のなかの詩情が胸をうつのだろうか。
いせ自身は、こんな言葉をこの絵本のあとがきに記している。「光と影を追いながら、どれほど生と死について考えさせられてきたことだろう」。
ゴッホの生涯が、残された絵画が、いせのようにこの国の死生観と交差するのかもしれない。
ゴッホとテオの兄弟にはたくさんの書簡が残されている。その数、700通近くにのぼるという。
兄は弟に悲痛な叫びをつらね、弟は兄に全身で応えようとした。
いせは、そんな兄弟の子供時代の様子を、何枚かこの絵本で描いている。
どんより低くたれこめる空の下で土になかになにやら見つけのぞきこむ「兄弟」。真っ青の一面の麦畑のなかでヒバリを追いかける「兄弟」。秋色に染まった森のなかで鳥の巣を手にする「兄弟」。
やがて、ふたつの影はひとつづつの影に別れていく。すなわち、「兄」と「弟」のそれぞれの人生に。
そんな兄ゴッホをいせはこう描いた。
「きみ(ゴッホ)はみえない翼をひろげる。/世界には何も怖れるものはないかのように-/きみは自分を解放した。/ひまわりの声をきき、麦のことばをきき、星の歌をきいたにいさん」
この絵本を製作しているあいだテオの「にいさんは、ぼくのすべて、ぼくだけのにいさんだったのです」という言葉が心を離れなかったといういせが、最後に麦畑で遊ぶ「兄弟」の姿を描いて終ったのは「兄弟」への深い愛があったからだと思える。
(2010/06/24 投稿)

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