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01/26/2009    書評:門
プレゼント 書評こぼれ話

  いよいよ漱石の三部作の最後、『』です。
  昨年公開された宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』の主人公の名前、
  宗助が、この『門』の宗助からとられたっていうのは、
  もう有名な逸話ですから、たくさんの人が知っていると思います。
  そういう点では、やはり漱石の文学というのは、
  いつの時代であっても、多くの人に影響しているし、
  作品の根幹でつながっている小説とか映画とか、
  たくさんあるのではないでしょうか。
  今回の書評では、
  「働く」という中で自分の苛立ちのようなものを書いていて、
  四〇手前の自分の、姿とか、気持ちとかが、
  そういうことではよく出ている内容です。
  こうして、昔の書評を読めば、
  その時々の自分に会えるのも面白い。

門 (岩波文庫)門 (岩波文庫)
(1990/04)
夏目 漱石

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sai.wingpen  明治からつながる今    

 『それから』の代助と美千代の後日談ともいえるこの作品は、明治四三年の春から初夏にかけて朝日新聞に連載された。
 その当時の読者も、代助たちの未来として、野中宗助と御米夫婦の暮らしぶりを見ていたに違いない。
 その当時の不倫の果ての、罪の意識が二人の頭上に常にたれこめているのを、満足としたかまではわからないにしろ、漱石がこの夫婦をおびえの生活に書き記したことは、時代の風だったのだろう。
 今こういう男女を描いたとしても、宗助のように山門に立ち尽くすことはあるまい。しかし、男女の間の恋愛に、この夫婦のような不安があることはいつの時代でもいえることで、漱石文学がいつの時代でも新しいのは、そういう普遍的なものを描いたからだろう。
 実はそんなことよりも、今回僕がもっとも心を魅かれたのは、次のような文章だった。
 「六日間の暗い精神作用を、ただこの一日で、暖かに回復すべく、兄は多くの希望を二十四時間のうちに投げ込んでいる。だから遣りたい事があり過ぎて、十の二、三も実行できない。その二、三にしろ進んで実行にかかると、かえってそのために費やす時間の方が惜しくなって来て、ついつい手を引込めて、凝としているうちに日曜は何時か暮れてしまうのである」
 引用が長くなったが、これはまさに今の僕の心境である。
 明治という時代の公務員であった宗助の心持ちと同じなのが、不思議な気がする。
 僕たちは漱石の時代から多くの進歩をしてきたはずなのに、そういった人間の根幹のところでは何一つ変わっていない。
 人間そのものを見続けた、漱石の目は鋭い。
  
(1994/04/17 投稿)

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