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プレゼント 書評こぼれ話

  最近のノンフィクション作品はあまり面白くないと思っていました。
  ところが、今回紹介する一冊はすこぶる面白い。
  著者の滝田誠一郎さんのことを知らなかったということを
  恥ずかしく思います。
  だから、書評に力がはいってまた1000文字を超えてしまいましたが、
  なんだかそれでも書き足りないくらいです。
  色々な角度から書評を書けるような気がします。
  こんなうれしいことはありません。
  少し書いちゃうと、
  この本の口絵にも紹介されていた創刊号(表紙は伊坂芳太郎)を見て、
  パァーツと思い出したというか、これ知ってるという感じで、
  記憶が立ち上がってきました。
  その頃、漫画青年でもありました。
  しかも、この時の執筆陣が、手塚治虫石森章太郎白土三平
  水木しげる、そしてさいとうたかをですから、
  「すごい」って思ったことまで甦ってきました。
  この五人をそろえた事情もこの本では書かれています。
  当時の漫画誌の事情とか、まだまだ興味ある記述がたくさんあります。
  本当に素晴らしい一冊です。
  
  
ビッグコミック創刊物語―ナマズの意地ビッグコミック創刊物語―ナマズの意地
(2008/12)
滝田 誠一郎

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sai.wingpen  ビッグなノンフィクション                  矢印 bk1書評ページへ

 一冊の本の魅力とは、そこに書かれている「情報」の質と量にかかっている。そのことにあらためて気づかせられた、滝田誠一郎のビッグな一冊である。
 ここで「情報」というのは広義な意味で使いたい。つまり、それは「感情」であったり「知識」であったり、広く私たちの心にはいってくるもの全般である。だから、本書のような「ノンフィクション」だけでなく、いわゆる小説や詩といった「フィクション」であっても同じことがいえるだろうし、学術書やビジネス本であってもそれは変わらない。
 やはり、人は未知なるものに対して深く心を動かされる。読むことの楽しみはまさにそこにあるように思う。
 『ビッグコミック』は、創刊から四〇年(1969年2月29日創刊)にわたり、第一級の人気を誇る青年コミック誌である。
 本書はその誕生秘話をその時の編集長小西湧之助を中心にして描いたノンフィクションである。
 小西という、挫折もし成功もおさめた一人の編集者の人物伝としても読めるし、漫画史としても楽しめるが、やはり主役は『ビッグコミック』という、一冊の漫画誌だろう。
 その一冊の漫画誌から、どうしてこのように奥深く幅の広いノンフィクションが書けたかについては理由がある。
 滝田は「あとがき」の中でこんなことを書いている。「私にとっては小説も漫画もまったく同じ読み物であり、ときに芸術であり哲学であり娯楽であり、多くのことを教えてくれる教科書でもあった。そういう目線、視点から、いつか漫画を題材にした本を書いてみたい」(307頁)。
 そういう強い思いがあったからこそ、これほどまでに完成度の高い作品に仕上がったと推測される。

 そして、本作品を臨場感あふれたものにしたもうひとつの要素が、「インタビュー」の力である。
 本書巻末に掲載されている「参考資料」はわずか十三冊にすぎない。
 つまり、本書の魅力は小西を初めとした当時の『ビッグコミック』編集部の面々、漫画家、競合他誌の編集者の発言等によるものだ。
 それをひきだし、構成した滝田の視点の確かさをほめたい。

 副題の「ナマズの意地」とは、「編集部を水の澱んだ沼にたとえ、自分たちは泥沼にひっそりと生息する夜行性のナマズになぞられ、"でも、いつかは世の中を揺り動かすような大ナマズになってやる!”」(72頁)という、『ビッグコミック』のトレードマークであるナマズに込めた小西の思いであるが、おそらくそれは著者滝田の意地でもあったにちがいない。
 読み応え充分な、ビッグなノンフィクションである。
  
(2009/02/11 投稿)

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