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プレゼント 書評こぼれ話

  先日小川洋子さんの最新作
  『人質の朗読会』にすっかりはまってしまい、
  だったら小川洋子さんはどんな作品で
  芥川賞を受賞したのだろうと
  読んでみたのが、
  今日紹介する『妊娠カレンダー』です。
  発表当時、もう20年以上前になるのですが、
  読んだはずですから、
  今回は再読ということになります。
  読書ノートを繰れば
  感想めいたことも書いているでしょうが、
  今回はまったく新しく
  書評を書いてみました。
  この「芥川賞を読む」というのは
  そういう点でも
  自分なりに楽しんでいます。

  じゃあ、読もう。

妊娠カレンダー (文春文庫)妊娠カレンダー (文春文庫)
(1994/02)
小川 洋子

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sai.wingpen  檸檬とグレープフルーツ                 矢印 bk1書評ページへ

 第104回芥川賞受賞作(1990年)。今や芥川賞の選考委員をつとめる小川洋子さんは本作で芥川賞を受賞した。
 少し精神的に不安のある姉の妊娠の様子を冷静にみつめる妹の日記形式で書かれた物語である。 
 姉の病気は「海に浮かんだ海藻のように波打って」「決して穏やかな砂地に舞い降りることはない」。新しい生命を宿すことで姉の精神はどんどん波打っていく。やがて妹はそんな姉に憎悪を抱くようになり、発癌性物質に汚染されているかもしれないグレープフルーツのジャムを姉に食べさせつづける。
 最後の「わたしは、破壊された姉の赤ん坊に会うために、新生児室に向かって歩き出した」という文章は恐い。

 この物語を読みながら梶井基次郎の『檸檬』という作品を思い出した。
 丸善の本屋の店頭で画集の上にそっと小さいレモンを置いた主人公。彼はそれを時限爆弾の見立て、爆破することを思い浮かべる。生きることの不安が一個のレモンに凝縮されて鮮やかな短篇である。
 しかし、実際にはレモンは爆破することはない。主人公の幻視である。それと同じ構造がこの『妊娠カレンダー』にも仕掛けられている。
 姉の赤ん坊はけっして破壊されない。それは妹の幻視にすぎない。その幻視を通じて、現代人の不安が静かに描かれている。
 梶井のレモンがそこだけ色を帯びているように、小川のグレープフルーツもまたそこだけ熱をもち、色あざやかだ。
 抑制された美しい文体がその後の小川の活躍を予感させる。
  
(2011/04/09 投稿)

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