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プレゼント 書評こぼれ話

  今回の百年文庫は34巻めの「」。
  このシリーズにはたくさんの作家の作品が収録されていますが
  この巻で『炭焼の煙』という作品を書いた
  江見水蔭という人は全く未知の人でした。
  この巻の「人と作品」によれば
  江見水蔭は1869年から1934年に生きた人で
  尾崎紅葉巌谷小波らと親交があったそうです。
  また田山花袋を世に出した人でも
  あるそうです。
  こんな風に書くと
  学生時代の文学史のおさらいをしているみたいですね。
  どうもそういうことにひっぱられると
  物語の面白さは半減しそうです。
  今回の3作品とも
  私はとても面白かったです。
  ぜひ恋の世界にひたってみて下さい。

  じゃあ、読もう。  


(034)恋 (百年文庫)(034)恋 (百年文庫)
(2010/10/13)
伊藤左千夫、江見水蔭 他

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sai.wingpen  切ないなぁ                 矢印 bk1書評ページへ

 ポプラ社の「百年文庫」の特徴のひとつは漢字一文字をタイトルにして、その関連した短編を収録しているという点だ。そして、漢字一文字となると多分この34巻目の「恋」という一文字は誰もが思いつくものかもしれない。
 恋。甘酸っぱいもの。悲しいもの。忘れられないもの。
 誰もがきっとこの「恋」という一文字に悶々とした経験をもつはずだ。そして、文学は数限りない「恋」を表現してきた。この巻では、伊藤左千夫の『隣の嫁』、江見水蔭の『炭焼の煙』、吉川英治の『春の雁』といった、あまり知られていない三つの短編が収められている。

 伊藤左千夫には有名な恋の小説がある。『野菊の墓』で、何度も映画化された悲恋の物語である。
 左千夫は正岡子規に師事した歌人でもあるが、酪農業を営むといった側面ももっている。
 『野菊の墓』の悲恋も農村という過酷な舞台が生み出したもので、本書に収録されている『隣の嫁』にも当時の農村の様子が克明に描かれている。
 「百姓はやアだなあ」と嘆く主人公の青年に好意を寄せる隣家の若き妻。一見不倫物語のようでもあるが、発表当時(1908年)の農村が孕んでいた問題を浮き彫りにしている。
 「ままならぬ世のならいにそむき得ず、どうしても遠い他人にならねばならない。(中略)実につまらない世の中だ」と、物語の最後に左千夫の顔がのぞくが、これは『野菊の墓』にもつながる。
 「自ら機械のごときものになっていねばならぬのが道徳というものならば、道徳は人間を絞め殺す道具だ」と、左千夫は過激に言い切っている。

 江見水蔭という作者のことはまったく知らなかった。明治時代の書き手である。
 収録されている『炭焼の煙』は左千夫の作品と同様に現代からみれば封建的な主従の関係が炭焼きの青年の恋を実現させない。主家の娘への青年の思いがただそれがゆえに純化されている。こういう恋は現代ではなかなか生まれないだろう。
 吉川英治はいわずとしれた国民的作家である。この『春の雁』という掌編では深川の花柳界を舞台にながれ商人と辰巳芸者の「恋」のかけひきが描かれている。ラストのどんでん返しともいえる展開が面白い。

 恋。いつの時代であっても、それはせつない。
  
(2011/04/27 投稿)

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