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プレゼント 書評こぼれ話

  人は怖いものをみる時、
  手で顔をおおい、そっと指を開いて
  その隙間からのぞきみるということを
  よくする。
  今日紹介する「百年文庫」の1冊は
  そんな風にして読んだら、
  恐怖が倍増するかもしれない。
  タイトルは「」。
  背筋が寒くなるかどうかはわからないが、
  はまってしまう3篇が収められている。
  中でも、江戸川乱歩の『人でなしの恋』は
  その文体といい、面白かった。
  なんとも妖しい世界である。
  きっと映像化されても
  たぶんされているのだろうが、
  はまってしまう世界だろう。

  じゃあ、読もう。

(017)異 (百年文庫)(017)異 (百年文庫)
(2010/10/13)
江戸川乱歩、ビアス 他

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sai.wingpen  指の間からのぞきみた世界             矢印 bk1書評ページへ

 人は自分と違うものをつい寄せ付けない習性をもっている。幽霊や妖怪はいざしらず、それは蛇のような爬虫類でもそうだし、同じ人間であっても風習や嗜好が違うだけで毛嫌いをしてしまう。 そのような習性が時に文学となって読み手を魅了するのは、怖いものみたさの、これもまた人間の習性だろうか。
 「百年文庫」17巻めのタイトルは「異」。異なるものたちを怪しげに描いた秀作が3篇収められている。

 江戸川乱歩といえば、19世紀のアメリカ文学を代表するエドガー・アラン・ポーの名前をもじってつけた筆名というのは、有名な話だ。それほどまでに乱歩はポーの世界に魅了されていた。
 そんな乱歩が描いた、人ではないものを愛するという怪しげな世界が『人でなしの恋』。女性の語り口調によるミステリー仕立てに出来上がっている。
 「それはそれは、凄いような美男子」である男と結婚した「私」は、まるで「浦島太郎が乙姫さまのご寵愛を受けたという竜宮世界」のような新婚生活を始めるのだが、やがて半年ばかりたった頃、深夜閨(ねや)を抜け出す夫の奇妙な行動に気付く。
 不思議に思った「私」はある夜、夫の後をつけ、敷地内の蔵に忍び込む。蔵の二階から聞こえてくる声は、夫のそれであり、もうひとつは女性の悩ましきもので、「私」を嫉妬の焔になげいれるのだが、それ以上に「私」を震撼とさせる秘密がそこにはあった。
 題名の『人でなしの恋』が、この怪しい世界をこれほどに言いえていて、これ以上のタイトルはないだろう。

 乱歩があこがれたポーの作品として『ウイリアム・ウイルスン』という作品が収録されている。
 これは特に異様な世界が描かれているわけではないにもかからわず、偶然にも同姓同名がいたばかりに、放蕩のかぎりの果てに追い詰められていく姿を描いて、これこそ人間そのものが持っているだろう、業の怖さがにじみでる作品である。
 もう一作もアメリカの作家ビアスの作品で、『人間と蛇』という味もそっけもないタイトルながら(原題も同じ)、乱歩の作品同様、これしかつけるべきタイトルはないのではないだろうかと思いたくなる。
 ラストのどんでん返しは多様な媒体で膨張する現代では怖さを感じないが、この作品が発表された19世紀後半では活字の世界が人々を畏怖させたのではないだろうか。
  
(2011/05/28 投稿)

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